研究課題/領域番号 |
21K13950
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
北村 遼 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 研究職 (10838379)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミューオン / イオン源 |
研究実績の概要 |
素粒子標準模型を超えた新物理により起こりうるミュオニウム(Mu)-反ミュオニウム(Mubar)転換過程の探索に向けて、従来のMubar崩壊由来の電子と陽電子を検出する手法に代わり、Mubarを構成する負ミュオンを直接検出する新たな実験を計画している。新手法では、負ミュオンと誤同定されうる負ミュオニウムイオン(Mu-)が実験感度を制限するバックラウンドとなる。そのため本研究では、電子イオン解離反応を用いたイオン解離装置(イオナイザー)を開発することで、Mu-の誤検出を抑制して実験感度の向上を図る。 イオナイザー内部では、大量の電子を用いてMubarをイオン解離したのち、負ミュオンを取り出す。令和3年度は、負水素イオン源の電子閉じ込め磁場を計算するための計算コード群を用いて、イオナイザー内部の電子閉じ込め磁場の設計に取り組んだ。 磁石配置は大強度陽子加速器施設J-PARCの負水素イオン源で実績のある、永久磁石をカスプ状に配列する構成を採用した。ミュオンの輸送計算には、粒子反応計算ツールであるGeant4を用いて、閉じ込め磁場中でのミュオンの挙動をシミュレートする計算コード群の整備を進めた。 電子によるMuのイオン解離は前例の無い取り組みであるため、シミュレーション上で定量的に反応過程を評価することが重要となる。令和3年度の実績として、イオナイザー中でのミュオンの反応過程を定量的を議論するために必要な基礎的フレームワークを構築した。 令和4年度のイオナイザー試作機製作に向けてフィードスルーの手配と既存の装置の確認を行い、予定通りイオナイザーの真空容器製作を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電子によるMubarのイオン解離は、従来に例の無い新しいアプローチであるため、対象となるミュオンの反応過程を定量的に評価するための数値計算手法の開発が重要となる。 負水素イオン源の研究分野で確立したプラズマ計算手法をミュオン用イオナイザーへと応用する点が本研究の要点の一つであり、今後に実施するイオナイザー試作機の評価の基礎となる。 一連の計算フレームワークは複数の計算コード群から構成されており、それらを横断的にカスタマイズすることで反応過程の計算を進めている。 当初計画では、令和3年度中にイオナイザー試作機の設計をまとめる予定であったが、試作機から得られる知見を最大化するため、令和4年度にも磁場設計を含むシミュレーション検討を継続することとした。 そのため、現在までの進捗状況は計画よりやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、磁場計算や粒子反応計算を含む数値計算コード群の開発及びそれらを用いた閉じ込め磁場の設計を進め、イオナイザー試作機の最適化を図る。 本研究のようなイオナイザーの検討は初の試みであるため、その特性や問題点を抽出するためには、シミュレーションのみではなく、試作機による実験的アプローチが必要となる。 包括的にイオン解離過程を理解するためには、試作機から得られた実験データと数値計算結果の定量的な比較が重要である。そのため、丁寧な設計検討を行う一方、一定の定量的な評価結果が確立した時点で試作機の製作を進め、実験的な評価へと移行する。 遅滞無く計画を進められるよう、共同研究者であるイオン源研究者とより緊密に研究進捗の議論を進める。また、イオナイザー試作機の製作後、ミュオンビームを用いないオフライン試験による装置の性能評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度から閉じ込め磁場の設計用計算コード群の開発を進めており、その結果に基づいて電子発生用フィードスルーと真空容器の取り合い最適化を図る。真空容器内部には高電圧を印加するため、放電を避けるよう検討する必要がある一方で、ミュオンの崩壊損失を防ぐにはコンパクトなイオナイザーを設計する必要がある。これら相反する要請に応えるため、イオナイザー設計の検討に重点を置くべく、一部機材の購入を延期した。これにより、次年度使用額が生じた。次年度使用額はイオナイザー真空容器製作及び閉じ込め磁場用磁石等の機材購入に関わる費用として使用する。
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