研究課題/領域番号 |
21K13952
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
山我 拓巳 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 特別研究員 (80830306)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 反K中間子原子核 |
研究実績の概要 |
本研究では、荷電中性のKbarNN状態がΛn対に崩壊する事象を捕らえるための中性子検出器と、荷電+eのKbarNN状態のΛp崩壊におけるスピン相関測定のための陽子偏極測定器が一体となった検出器の開発を進めている。検出器は中性子の検出及び陽子偏極測定のための2次散乱を引き起こすためのバルク層と、2次散乱陽子の散乱角度測定のためのトラッキング層の2層からなる。前年度行ったトラッキング層に関する試作機制作とビーム照射実験から、トラッキング層にシンチレーションファイバーを用いることとした。しかし、新規のシンチレーションファイバーの購入が困難であったため、既存データを用いて中性子検出における信号事象と背景事象の分離手法の開発を行った。 背景事象の多くは、ビームによって生成した何らかの2次粒子が、検出器周りの物質とさらに反応して生成する3次粒子によって作られる。特に、3次粒子が中性粒子であった場合に、反K中間子原子核からの中性子(信号事象)か、それ以外の中性粒子(背景事象)であるかは、原理的に分離不可能である。そのため、背景事象が作る事象分布を精度良く再現し、実際に得られた分布から差し引くことで、目的の信号事象の事象分布を得ることを目指した。 3次粒子によって作られる事象は、目的の反応由来の粒子とは異なり、時間的にランダムに作られる。そこで、荷電粒子と中性粒子のそれぞれによって作られた検出器情報をランダムに組み合わせることで、背景事象の事象分布が得られることがわかった。この手法により、背景事象の寄与を引き、目的の信号事象の分布が得られることを確かめた。この手法を用いて、KbarNN状態のπΛNもしくはπΣNに崩壊モードについて解析を行い、現在投稿論文を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前年度行ったトラッキング層に関する試作機制作とビーム照射実験から、トラッキング層にシンチレーションファイバーを用いることとしたものの、シンチレーションファイバーの製造工場の耐震工事により、新規のシンチレーションファイバーの購入が困難であった。そのため、試作機開発が当初予定通りには進まず、代わりに既存データの解析を行ったため、進捗が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
シンチレーションファイバーの調達を行い、トラッキング層の試作機開発および性能評価を目指す。トラッキング層は~3mの長さで直径1m~2mの円筒型のレイヤーを複数持つ。光検出器までの取り回しを考えると、~4mのシンチレーションファイバーが必要となるが、一般的なシンチレーションファイバーの減衰調が同程度のため、必要な光量が確保できるかが問題となる。そこで、>4mの長さのシンチファイバーを複数本束ねたリボン状の試作機を作製し、発光量の確認を行う。また、直径が比較的大きいため、ファイバーを円筒型に固定する方法を試作を行いながら確立する。合わせて、波長変換ファイバーなどの代替品によるトラッキング層の実現可能性についても、試作機開発および性能評価によって検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試作検出器の構成に必須であるシンチレーションファイバーの調達が困難であったため、試作機製作の予算を次年度に繰越した。すでに試作機開発とシミュレーションによる検討から、検出器の構成が決定しているので、それをもとに新たな試作機の開発および性能評価を行い、開発を完了する。
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