研究課題/領域番号 |
21K13967
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
古家 健次 国立天文台, 科学研究部, 特任助教 (80783711)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 原始惑星系円盤 / 星間化学 / ダスト |
研究実績の概要 |
本研究はダストの合体成長進化に伴う原始惑星系円盤の化学進化を明らかにすることを目的とする。その目的のため、本年度は以下のことを行った。 (1)昨年度構築した原始惑星系円盤内のダスト沈殿、乱流によるガス・ダストの攪拌効果、気相・固相反応を整合的に解くモデルの結果の解析を進め、得られた知見を学術論文として発表した。主要な成果として、(i)円盤ガスが1 Myr程度のタイムスケールで酸素・炭素に対し相対的に窒素に富んだ組成になること、(ii)ガス・ダストの輸送や気相・固相反応のみでは観測されているような高いC/O比を持つ円盤ガスは実現されないことを明らかにした。(ii)に関しては炭素質ダストの紫外線/X線による破壊により、ダストからガスへと炭素を供給するメカニズムなどが重要である可能性が高く、今後研究を進める必要がある。 (2)上述のモデルを同位体化学を考慮できるように拡張し、円盤上層物質の赤道面への輸送が円盤赤道面の水氷同位体組成に与える影響について解析を進めた。 (3)ALMA観測により、原始星アウトバースト天体周りの円盤について雪線内側の水のD/H比を初めて測定した。彗星などの異なる進化段階の天体に含まれる水のD/H比と比較することで、彗星や円盤の水は星形成前の分子雲段階で作られたものであることが分かった。結果はNature誌に掲載された。 (4)星間化学モデルにおける表面反応の不定性が気相・固相上の化学種の存在量予測にどの程度不定性を与えるかを評価し、その結果を学術論文として出版した。10 K程度の低温であれば水素付加反応が卓越するためモデルの不定性は小さいが、数十Kではラジカル種の拡散速度の不定性が結果の不定性(特に有機分子の組成)に大きく影響することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上で述べた通り、原始惑星系円盤の化学の理論的理解を進め2本の主著学術論文を出版した。観測研究者とも共同研究を進め、ALMAによる観測結果について複数の学術論文を共著者として出版した。一方で、予定していたJWSTに向けた赤外線輝線の観測予測については、ダスト空間分布の取り扱いについてコードの大幅な改良が必要であり、遅れている。 以上を総合的に判断し、おおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
円盤上層物質の赤道面への輸送が円盤赤道面の氷組成について与える影響を明らかにし、特に水氷の水素同位体および酸素同位体比について論文にまとめる。 本研究でこれまで開発してきたモデルはダストサイズ分布が仮定されているという短所がある。より現実的なシミュレーションを行うために、ダストの合体成長およびサイズ分布を陽に考慮したモデルへと拡張することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、参加を予定していた国際学会・研究会が全て延期 or オンライン開催となったため。 未使用で残った差額は、2023年度に出張旅費及び物品費等で使用予定である。
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