研究課題/領域番号 |
21K13972
|
研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
大場 崇義 国立天文台, SOLAR-Cプロジェクト, 特任研究員 (10824443)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 太陽 / 対流 / 磁場 / 光球 / 彩層 / 偏光分光 |
研究実績の概要 |
本研究計画の目的は、「太陽表面大気(光球)における対流運動による磁束管へのエネルギー注入」および「上層高温大気(彩層)におけるエネルギー散逸」までの一連のエネルギー変換を同定することである。そこでまず初年度において実施したのは、光球における水平速度場の空間構造およびダイナミクスの詳細解析、そして光球上空において生じている温度変動現象との関連性の調査である。この研究を実施した背景として、光球における水平速度場そのものの導出がこれまで困難であり、まずは研究代表者によるアプローチが妥当であるかを検証する目的がある。具体的には、太陽観測衛星「ひので」の分光スペクトルデータを用いた解析を行った。ガス運動による圧縮・膨張作用の特徴付けを行い、光球上空における温度上昇構造との間に有意な相関があることを初めて示した。さらに定量的な見積もりにより、ガス圧縮・膨張に伴う温度変動によって説明できることを明らかにした。 一方、本研究計画でターゲットとしているのは、光球の上に位置する高温大気(彩層)の物理量診断である。彩層における磁気流体現象は動的である一方で微弱な偏光信号しか伴わず、その物理量診断はこれまで困難であった。そこで鍵となるのが、2022年6月の打ち上げを目指している「国際共同大気球観測実験SUNRISE-3」による近赤外線偏光分光観測である。本実験は、世界で初めて飛翔体観測による光球・彩層の同時偏光分光観測を実現する。 当該年度において研究代表者が開発を進めていたスキャンミラー機構の性能実証・電気試験を実施し、問題なく所定の性能・機能を有することを実証している。フライト実現に向け、継続して準備を進めているところである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度において、太陽観測衛星「ひので」の分光データを用いた水平速度場の空間構造およびダイナミクスの解析により、ガス圧縮・膨張作用が光球上空で生じている温度変動構造を形成していることを説明できた。これは、本研究計画において要となる水平ガス運動の解析手法が、太陽大気中の動的現象を説明するためのアプローチとして有効であることを実証した例となる。また、「国際共同大気球観測実験SUNRISE-3」の実現に向け、研究代表者が開発を進めてきたスキャンミラー機構の性能検証・機能試験を実施することで所定の性能・動作機能を保有していることを確認できており、着実に進めることができている。
|
今後の研究の推進方策 |
当該年度において確立した水平ガス運動の空間構造・ダイナミクスの解析手法を用い、それらが磁束管に与える作用に関する解析を進める。さらに、2022年度において飛翔予定である「SUNRISE-3国際共同大気球観測実験」による高精度な近赤外線偏光分光観測の実現を目指す。その後、取得された近赤外線偏光分光スペクトルデータを用い、光球・彩層大気における物理量導出・診断を進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19による感染拡大によって当該年度に予定していた海外渡航を2022年度以降に延期した。2022年度は、COVID-19による感染状況を考慮しつつも、延期によって発生した助成金および2022年度請求額を合わせて海外渡航費に充当することで研究計画を進める予定である。感染・渡航状況によっては、リモート体制による解析環境を整えるための機材購入に充てることで、効率的に研究を進めていく。
|