研究課題/領域番号 |
21K13973
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
高橋 葵 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, アストロバイオロジーセンター, 特任研究員 (70851848)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 黄道放射 / 黄道光 / 惑星間塵 / 太陽系 |
研究実績の概要 |
赤外線天文衛星「あかり」で多数の天域に対して取得された波長5-12μmでのスリット分光画像を詳細に調査し、低い地球離角で観測された場合に夜空の表面輝度が高くなることがわかった。これは、地球からの熱放射の一部が望遠鏡バッフルの間をすり抜けて迷光として画像内に混入していることを示唆する。この結果を受けて、より長波長(18-25μm)のチャンネルで取得されたスリット分光画像について、地球離角が大きな条件で観測されたものに限定した上で解析を進めている。本チャンネルの画像では光学装置内での散乱光が顕著に見られるためその強度分布を実際のデータから見積もり差し引く必要があるが、その手法を確立すべく様々な調査を実施中である。今後、本チャンネルのスリット分光画像から黄道放射スペクトルを導出できた場合、世界で初めて20um帯での黄道放射スペクトルを詳細に調査することが可能となる。これは、太陽系内に浮遊する惑星間塵の組成を知る手がかりとなり、進化段階の初期にある太陽系についての重要な情報をもたらすと期待される。 また惑星間塵の絶対量を知る手段の1つである黄道光の表面輝度推定を目指し、米国パロマー天文台の Hale 200インチ望遠鏡と可視分光装置 DBSP を用いて取得された観測データの解析を進めた。観測画像から夜空の可視スペクトルを導出し、その中に見られる黄道光由来のフラウンホーファー吸収線(Ca H/K線)の吸収強度から黄道光の表面輝度を推定した。現状の暫定値では既存の黄道光分布モデル(Kelsall et al. 1998)で予想される表面輝度から大きく外れた値となっているが、これは地球大気光が除去しきれていないためと考えられるため、より慎重に調査を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
「あかり」で取得された波長18-25μmのスリット分光画像に混入している散乱光の差し引きを行うにあたり、散乱光成分のみを抽出し見積もる方法や、その後正しく差し引きできているかを評価する方法に関して目処がたっていない。 またHale 200インチ望遠鏡で取得した夜空の可視分光データの解析では、地球大気光スペクトルを複数の独立した手法で観測データから経験的にモデリングしたが、そのそれぞれで結果が異なり系統誤差の主要因となっている。
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今後の研究の推進方策 |
「あかり」の波長18-25μmのスリット分光画像に混入している散乱光を完全に差し引くことが難しいため、採集された隕石や宇宙塵の分析結果をもとに惑星間塵に含まれうる候補物質を予測し、その物質がスペクトルフィーチャーを示す波長のみに着目する。観測されたスペクトル中にその波長で有意な凹凸が検出された場合、散乱光が同じ波長でスペクトルの凹凸を持ち得ないことさえ示せれば、黄道放射由来のスペクトルフィーチャーであると実証できる。 また、「あかり」のデータ解析と並行してJWST/MIRISのアーカイブデータを用いて夜空の中間赤外線分光画像から黄道放射スペクトルを導出することも視野に入れて検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
「あかり」の分光画像解析から新規の科学成果を出せておらず、予定していた研究会への参加が延期となった。また、申請時にはJWSTに観測提案を提出し採択されれば国際協力が活発化し海外出張も増える見込みであったが、初回の観測提案募集で不採択となった後に公開が開始されたアーカイブデータを使用して観測可能性を再度吟味することに方針を切り替えたため、海外出張の必要がなくなった。 2023年度は、JWSTの大規模なアーカイブデータを扱うための計算機および外付けハードディスクの購入や、将来の大型望遠鏡による観測立案を目指した国際ワークショップへの参加等に予算を使用する予定である。また、パロマー望遠鏡で観測した夜空の可視光スペクトルの解析結果について論文にまとめる予定のため、論文出版費用も支出する可能性がある。
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