研究課題
本研究では分子雲の環境(温度・ガス密度・ガス組成・放射線強度など)を観測から知るための手がかりとすべく,分子雲中において異性体が関わる化学反応の断面積や分岐比を詳細に調べることを目的として,液体窒素温度に冷却した高分解能移動度分析装置の開発を行った.新たに一から組み立てたエレクトロスプレーイオン源によって,アルギニンなどの高分子イオンを生成することが可能になり,移動度分析を行えるイオンの幅が大きく広がった.また,冷凍機の導入と合わせて移動管全体のアライメントを見直し,移動度分析装置のイオンの透過率が改善したことで,移動度分析の時間効率が向上し測定できるイオン種の幅が広がった.移動度分析では,電場・磁場による分析で不可能な質量電荷比が等しい異性体イオンの分析が可能である.また,移動度分析は大気分析などで広く利用されている技術だが,2~20原子数ほどの小さな分子を測定するのに適した低温・高分解能移動度分析の研究はずっと少なく,本研究で構築した装置で今後得られる成果には大きな意義があると考えられる.今後,電子衝撃イオン源・エレクトロスプレーイオン源から生成される種々のイオンに対して移動度分析を行い,異性体イオン-中性ガス反応の反応速度定数の温度依存性を測定するとともに,測定結果をそれらの異性体の分子雲中での存在比の観測結果と比較し、観測から分子雲の温度を推定するための新たな手法を構築する予定である.
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