研究課題
本研究では、系外惑星大気の元素存在度から惑星の形成過程、また形成時の原始惑星系円盤の環境を解明することを目指す。そのために、観測可能な大気の元素存在度が、円盤内での惑星移動の有無や惑星の形成場所、円盤の乱流強度にどのように依存するのかを明らかにする。加えて、系外惑星や、惑星と恒星の中間質量をもつ天体である褐色矮星の大気の観測を行い、構築したモデルを適用することにより、それらの天体の形成過程を探る。本年度は、昨年、すばる望遠鏡の高分散分光器IRD (InfraRed Doppler) を用いて観測した褐色矮星のうちの1天体(惑星と同様、主星をもつ)について、大気スペクトルの解析を行った。共同研究者と開発した高分散スペクトル用のリトリーバル(逆問題手法)コードExoJAX (Kawahara, Kawashima et al. 2022)を観測スペクトルに適用した結果、当該天体に対する先行研究の低・中分散観測と比較し、大気の化学組成や温度構造を高精度に制約することができた。また、現状の高分散分光による系外惑星大気の観測において、一番のボトルネックとなっているのが高温環境(1,000 K程度)下での分子の吸収線リストの不定性である。今回、系外惑星と同様の温度をもつ褐色矮星の大気の高分散スペクトルを高い精度で観測できたことで、現在の水蒸気やメタンの吸収線リストに観測と不一致を示す波長領域があることがわかった。このように、比較的観測精度の得やすい褐色矮星大気の観測を通し、高温環境下での分子の吸収線リストの検証を行っていくことは、系外惑星大気の特徴付けを進めていく上で非常に重要である。
2: おおむね順調に進展している
褐色矮星のスペクトルは、これまで主に低・中分散分光により観測されてきた。吸収線一本一本のプロファイルを分解可能な高分散分光観測では、分子種の存在量や温度構造をより詳細に求めることが可能である。本年度の研究により、系外惑星・褐色矮星の温度帯の大気の高分散スペクトルに対して、逆問題手法を用いて大気の特性を制約する手法を確立できたといえる。今後、観測精度が向上すれば、同様の手法は系外惑星大気についても適用可能である。
次年度は引き続き、すばる望遠鏡を用いて観測した褐色矮星大気の高分散スペクトルについてデータ解析を進め、褐色矮星とその主星がもつ元素存在度の比較により、形成過程を探っていく予定である。また、原始惑星系円盤の化学および物理進化モデルの構築に着手し、観測可能な大気の元素存在度が惑星の形成過程(円盤内での惑星移動の有無と惑星の形成場所)や形成時の円盤環境(乱流強度等)にどのように依存するか調べる。
コロナ禍により、国際会議への現地参加を取り止めたため。次年度、数値計算に必要なSSDの購入に当てる予定である。
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The Astronomical Journal
巻: 164 ページ: 124~124
10.3847/1538-3881/ac85be
天文月報
巻: 115 ページ: 286
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