研究実績の概要 |
当該当年度では、地球外物質の酸素同位体多様性をもたらした太陽系始原固体物質とCOガスとの酸素同位体交換反応に注目し、非晶質ケイ酸塩とCOガスとの低 COガス環境下での酸素同位体交換実験をおこなった. 温度やCOガス分圧を変えた幾つもの加熱条件でフォルステライト組成の非晶質ケイ酸塩の酸素同位体交換実験を実施した. 実験の結果、粒子内部の拡散と粒子表面へのガス供給プロセスの速度に律速された同位体交換速度が定量的に決定された。また、非晶質ケイ酸塩は、H2Oガスに対して極めて遅い速度でCOガスと同位体交換をすることがわかった。原始太陽系円盤への応用から、非晶質ケイ酸塩とCOガスとの同位体交換は遅いものの、CO-H2Oガス間の同位体交換よりも速いため、非晶質ケイ酸塩は、非晶質ケイ酸塩-CO-H2O系における酸素同位体交換平衡を加速させる触媒として働くことが解明された。この結果は、これまで考えられていたよりも低温で酸素同位体交換平衡が達成される可能性を示している。 上記の非晶質ケイ酸塩のCOガスとH2Oガスとの反応性の違いは、溶融CAIメルトの両ガスに対する反応性の違いと整合的であり、他の化学組成をもつ非晶質ケイ酸塩やコンドリュールメルトの酸素同位体進化を記述する上でも応用可能なデータとなり得る。研究期間全体を通して得られた結果は、太陽系の始原的物質である非晶質ケイ酸塩やケイ酸塩メルトの酸素同位体進化を包括的かつ定量的に理解する上での基礎的かつ重要なデータである。本研究で得られた非晶質ケイ酸塩の酸素同位体進化の速度論を、動的な太陽系円盤に応用した研究も現在進行中であり (Ishizaki, Yamamoto et al., 2023)、今後太陽系の酸素同位体進化に対して新たな知見が得られることが期待される。
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