本課題の目的は、アムンゼン海を含む西南極モデル、トッテン棚氷を含む東南極モデルの両者についてデータ同化を含めたモデル開発を実施することである。両地域において、棚氷の融解が南極大陸から海への氷の流出を促進し、海面上昇へ寄与することが危惧されている。海洋モデルを用いて、温かい水塊の棚氷下部への流入経路の特定と、その変動要因の理解が求められている。 西南極モデルについては、アジョイント法を用いたデータ同化を実施した(Geoscientific Model Development誌)。同時に、データ同化を実施しても、経年変動の再現性が改善されず、現モデルに含まれていないプロセスが棚氷融解や海洋場の再現性に影響を与えていることが示唆され、その原因の一つと考えられる棚氷下部から海へと流出する氷河融解水の影響を見積もった(Geophysical Research Letters誌)。さらに、高解像度化を実施し、経年変動の再現性を向上させることに成功した。この結果から、新たに海洋と海底の相互作用が棚氷誘拐に寄与するという新しい見方を提唱した(Nature Communications誌)。 東南極モデルについては、モデルを開発した(Geophysical Research Lettersに掲載)。さらに、このモデルについて、2019年に新しく取得された海底地形データへのモデル地形の更新を行った。生態系モデルを組み込み、現在、グリーン関数を用いた同化の実施、論文投稿の準備を進めている。 計画通り、両領域の研究を実施できた。特に、西南極域モデル開発においては、内容的にも分野に一石を投じる新たなプロセスの発見に繋がり、論文の成果、内容ともに、素晴らしい成果となった。
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