研究課題
古気候学や地形学を中心とする研究分野において,宇宙線生成核種(10Be,26Al)を用いた年代測定法が幅広く利用されるようになった.この年代測定法は,地球磁場変動に伴う核種の生成率変化の取り扱いについて,発展の余地がある.そこで過去の地球磁場変動をどのように年代換算の際のモデルに組み込むかという点について,近年,盛んに議論が重ねられている.しかしこれまでの研究では,特に若い年代の範囲において,核種の生成率の実測データが不足しており,年代換算のモデルの妥当性の検証が不十分であった.二年目である2022年度は,これまで複数提案されている地球磁場モデルについて,核種生成率の変化履歴の数値シミュレーションを行った.その結果,磁場モデルによって非双極子成分の寄与が異なり,年代の換算に影響を与えることが明らかになった.特に年代が若い完新世の試料では,地球磁場モデルの選択によって年代換算結果の差異が大きい.また過去数千年間,東アジア域は他地域よりも核種生成率が小さく,年代換算モデルの妥当性の検証に適した地域であることが示された.分析の前処理方法については,引き続き目的元素の収率について検証した.これは目的元素の単離の程度が良いほど,加速器質量分析において高い電流値が得られ,分析精度が向上するためである.陽イオン交換を行う際の酸溶液を希硫酸とし,チタンの呈色反応を利用することで,目的外元素の分離が容易になった.
2: おおむね順調に進展している
これまで複数提案されている地球磁場モデルについて,核種生成率の変化履歴の数値シミュレーションを進めた.その結果,特に地球磁場の非双極子成分の寄与の差異について,年代換算の際に組み込む地球磁場モデルを制約するために必要な知見が得られた.また引き続き分析の前処理方法について,改良を進めた.
これまで地球磁場モデルは複数提案されている.しかし各地の古地磁気データのコンパイルの際,堆積物試料,火山岩試料,考古学的試料の重視の程度の違いから,非双極子成分の寄与に地域差がある.これまで発表されている既存の生成率実測サイトのデータを含め,宇宙線生成核種の生成率の実測値から,年代換算に用いる地球磁場モデルを制約し,年代換算法を構築する.
耐酸ホットプレートの納品が2023年度4月となったため次年度使用額が生じた.
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Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms
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10.1016/j.nimb.2022.11.028
計測標準と計量管理
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