本研究の目的は、過去の自然災害の際に移動する巨大な岩塊(巨礫)の移動履歴を、地磁気を利用した年代測定から解明し、今後の自然災害の評価に活かすことを可能にすることである。そのために、活断層型地震に伴う地滑りや津波で移動した巨礫を調査し、試料の採取と分析を実施した。これまで、試料の磁気分析には1インチコア試料(バルク試料)を用いることが一般的であったが、変質作用を被っている場合があり、加熱処理を用いた移動後の磁気記録の消磁温度が、理論的に予測される温度を大きく上回ること(概ね200度以上)がしばしば発生していた。このことで、移動後の磁気記録か変質に伴って再磁化された磁気記録なのかを含めて、明確に判別することができずにいた。また、磁気年代測定を実施すると想定される年代値よりも古くなってしまう問題も抱えていた。そこで、本年度はこの課題を解決するべく、ケイ酸塩鉱物の単結晶を試料から抽出し、それら微小試料に包有される磁性鉱物群の持つ磁気記録を解明する手法開発に注力した。ケイ酸塩鉱物単結晶中の磁性鉱物は変質作用への耐性が強いことが知られており、これまで磁気記録を用いた移動履歴を復元できなかった試料からも、移動履歴とその年代を算出できるようになる可能性がある。そこで、単結晶試料を岩石試料から分離し、段階熱消磁実験を行うことで、200度以下で複数の磁気記録を確認できることがわかってきた。今後得られた成果をまとめて国際誌への投稿を目指していく。
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