南海トラフ大地震のトリガーとなる西南日本弧の歪の蓄積・解放過程の理解に資するために,低温領域の熱年代法に基づく陸域における地質時間スケールの非弾性歪成分(≒永久変形)の推定を試みてきた.本研究では,四国・中国山地に着目し,これらを横断する南北方向の2本の測線(鳥取―徳島,島根―高知)沿いに基盤岩である花崗岩類のサンプルを採取し,閉鎖温度が低温領域の熱年代法であるフィッション・トラック法や(U-Th)/He法(以下,それぞれFT法,He法)による隆起・削剥履歴の推定を試みた. 本研究では2021年度に中国山地(鳥取~岡山),2022年度には四国山地(愛媛,香川,徳島)および中国山地(島根~広島)でのサンプリングを行い,鉱物分離および年代分析を進めてきた.2023年度は,四国山地のシルル紀~白亜紀の花崗岩試料について年代測定を実施した.結果として,8点のアパタイトHe年代(52~7 Ma),4点のアパタイトFT年代(90~21 Ma),9点のジルコンHe年代(200~70 Ma)を取得した.各手法の閉鎖温度の関係を考慮すると,新たに得られた年代値は形成年代よりも有意に若いか同程度の年代を示し,既往データとは概ね整合的な結果が得られた.特筆すべきはアパタイトHe年代の空間分布であり,岩体の形成年代に関わらず,中央構造線より北部で60~20 Maの古い年代,南部は全て10 Maを切るという結果となった.これらの年代は,先行研究で示唆されたFT法に基づく10 Ma頃の西南日本弧の広域的な冷却イベントや,3 Ma頃のフィリピン海プレートの斜め沈み込み開始に対応した隆起・削剥の影響による,(部分的な)年代の若返りを反映している可能性がある.
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