研究課題/領域番号 |
21K14032
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
千徳 明日香 琉球大学, 理学部, 助教 (00722802)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 無藻性イシサンゴ / 骨格形成 / 多様性 / 微細構造 / 周期性 |
研究実績の概要 |
生物は環境サイクルに対応した周期性をいろいろな生理現象の中に示し,それらの多くは環境への適応として獲得されたと考えられている.特に殻を有する生物の場合,約1日の概日リズムや約1年の概年リズムなどが,成長線に代表される骨格の構造に顕著に表出すると考えられてきた. 浅海の造礁性イシサンゴにおいては,光量の変化で調整される時計遺伝子や,それがもたらす概日リズムなど,短時間スケールで周期的に発現する内因的な細胞生理現象が明らかとなってきた.本研究では,これまで注目されてこなかった無藻性サンゴの生体と骨格を用いた学際的研究によりサンゴ骨格中に,概日リズム,概日時計遺伝子,石灰化過程によって裏付けられた,正確な1日刻みの目盛りをサンゴ骨格に設定することを目的とする.浅海に比較し環境が安定している深海においてこのような微細な成長線を形成するのは,細胞生理現象の周期性が直接に影響を与えていると予想される. これにより,骨格構造と各時間リズムとの正確な対応関係明らかにし,極微小領域でのアラゴナイト結晶構造の仕組み,化学組成の不均質性,石灰化の分子機構,有機基質の役割を考慮した生体鉱化作用の解明を目指す.本研究は日輪といった微小スケールの成長線が,実は石灰化における造骨細胞などの日周活動と対応可能であることに注目し,微細な骨格構造から骨格形成時の細胞活動履歴を読み解く. 本年度は研究対象であるイシサンゴの確保や安定した飼育環境の設営を行い,飼育個体にストロンチウムやカルセインを添加し,骨格中に微量元素の取り込みを行った.また,飼育個体の概日リズムの検証を行うため,概日リズムにおける自由継続周期や環境に同調した日周性といった,ポリプの膨縮における時間的な要素を解析している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で使用したサンプルは,鹿児島県本土近海のヒゲナガエビ漁などの底引き網で混獲された無藻性単体イシサンゴのセンスガイ科Flabellum (Ulocyathus) deludens,F. (Ulocyathus) japonicum,F. (F.) magnificumである.まず,軟体部の挙動をモニタリングし,生体の概日リズムを明らかにするため,飼育実験を行った.実験は12時間毎にライトを点灯した状態とライトを点灯しない状態(LD)と,ライトを点灯しない状態(DD)の環境を人工的に作り出した.撮影のため,赤外線ライトを常時点灯した.赤外線を撮影できるようにしたカメラを用いて10分間隔で写真を撮影し,得られた写真を画像解析ソフトImageJを用いて計測,ActogramJを用いてカイ2条ピリオイドグラム解析を行った.さらに,骨格部分の実験では,蛍光物質(カルセイン)とストロンチウムを海水に溶解し,この海水でサンゴを1日間飼育した.石灰化マーカーを取り込ませた骨格の成長様式の観察のため,サンプルを固定し,骨格を切断・樹脂包埋し,必要に応じて蛍光実体顕微鏡やSEM・EDSを用いて観察を行った. 軟体部の挙動をカイ2条ピリオイドグラム解析した結果,LD・DDのいずれの個体でも,おおよそ24時間の概日リズムが見られた.実験や個体によっては,約12時間ほどの周期を示すものや,約30時間の周期を示すものもあった.骨格成長様式の分析においては,カルセイン海水で1日間飼育した個体の骨格表面では軟体部がついている骨格部分に沿って帯状に蛍光がみられ,隔壁の断面では骨格壁側に近い内側が局所的に蛍光し,側面では層状に発光しており,一日単位での石灰化部位が確認された.さらに,SEM‐EDSによる観察結果,ストロンチウムが骨格全体にほぼ一様に取り込まれていることが確認された.
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今後の研究の推進方策 |
飼育実験の結果より,Flabellum (Ulocyathus) japonicumとF. (F.) magnificumは光を感じ取り約24時間のリズムを持ち,このリズムは光のない状態でも保たれる.すなわち,体内時計(概日リズム)によって軟体部の挙動リズムが保たれていることから,内因性の自律振動と考えられる.約12時間のリズムに関しては,約24時間の1/2倍の周期である.このことから,これは本来の周期ではなく,本来の周期の整数分の1,整数倍で現れる可能性のある周期である,ハーモニクスの可能性がある.約10時間,約30時間で現れる周期に関しては,ヒトで体内時計の周期に個人差が見られるように,サンゴでも体内時計の周期に個体差がみられる可能性が示唆されるため,追加の検定などを行い結果を精査する必要がある. 蛍光実体顕微鏡での観察結果では,隔壁は同心円状に弧を描くように成長しているがそれらは均一ではなく,スポット的に起こっているなど,深海性サンゴの一日単位の具体的な石灰化部位が明らかとなった.今回の軟体部の挙動実験で認められた内因性の自律振動が,骨格形成の周期性に直接的に関与している可能性がある.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定だったオートクレーブなどの備品が学内施設で使用可能であり,購入が不要になった.また,2022年は新型ウイルスの影響で航海や出張が減り,予算に余裕ができた. 繰り越した予算に関しては,これまで中止してた調査等に参加するため,今後,出張費等に使用する予定である.
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