Al-Zn-Mg合金は代表的な高強度アルミニウム合金であり、さらなる高強度化を目指す際は水素脆化の克服が課題となっている。この具体的な克服方法として、本研究では金属間化合物粒子の分散を提案した。放射光3D/4D破壊挙動解析および水素分布解析を駆使し、金属間化合物粒子によるAl-Zn-Mg合金の高強度化・高延性化に挑戦した。 令和三年度は、金属間化合物粒子として、Al7Cu2Fe粒子を分散させたAl-Zn-Mg合金の変形破壊挙動を放射光X線トモグラフィーにより3D/4D観察した。その結果、Al7Cu2Fe粒子は、Al-Zn-Mg合金の水素誘起擬へき開破壊を抑制できる一方で、粗大で歪な粒子が早期に損傷し、材料の破断伸びを低下させることが明らかとなった。 そこで、令和四年度に実施予定であった、Al7Cu2Fe以外の粒子によるAl-Zn-Mg合金の水素脆化防止研究を前倒しで開始した。令和三年度後期、第一原理計算により、Al7Cu2Fe以外の各種金属間化合物粒子の内部水素トラップを網羅的に探索した。結果、特にMn系金属間化合物粒子において、Al7Cu2Fe以上の内部水素トラップエネルギーをもつ粒子を複数発見できた。 令和四年度にはMn系粒子を分散させたAl-Zn-Mg合金を作製し、その水素脆化防止・粒子損傷挙動を放射光イメージングにより3D/4D解析した。その結果、0.6%のMn添加により、水素誘起擬へき開破壊を大きく抑制できることが明らかとなった。Mnを微量添加したAl-Zn-Mg合金では、内部水素トラップ能が高いMn系分散粒子が形成されており、これにより水素脆性が抑制されていることを実験・計算の両面で実証できた。Mn系粒子は、Al7Cu2Feよりも微細に形態制御可能であることから、合金の力学特性改善に資する粒子として強く期待できる。
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