研究課題
Fe-24Cr-19Ni (mass%)合金を引き続き用い,昨年度までに積み上げた水素由来の固溶強化に関する実験事実と固溶強化モデルを立証するため,これまでの引張試験や応力緩和試験に加えて,ひずみ速度急変試験および透過型電子顕微鏡による転位組織観察を行った.これらの検討により,水素が母相の摩擦力成分を上昇させる障害物として働くことや,転位に追従する水素雰囲気が固溶強化に寄与しているという昨年度までの考察を強化した.変形中に蓄積する転位の集団的構造に対して水素の影響がないことを明確に示し,水素による高強度化現象が,転位間相互作用の変化ではなく個々の転位の運動阻害効果によるものであることを立証した.また,昨年度に測定した応力緩和試験と転位運動活性化体積のデータを精緻に解析し,水素由来の固溶強化にStress-equivalence(活性化体積が降伏応力を決定する)と呼ばれる特徴があることを見出した.この事実は,各々の転位運動熱活性化過程に複数の水素原子が同時に関与していることを示す事実であり,水素による固溶強化機構を考える上での極めて貴重な手掛かりである.水素による高延性化を司る変形双晶促進現象については,その変形温度への依存性を173~423Kの温度範囲で調査した.同現象は室温以下の温度範囲で生じることが明らかとなったが,373K以下の温度では変形双晶促進が延性の向上へ繋がる様子は認められなかった.これは,温度低下に伴ってより低ひずみ領域で双晶が発現して飽和傾向へと向かうためであり,今後水素の有効利用を目指す上での材料設計指針の一つを与えるものであった.これらの新たな発見と昨年度までの内容を含め、成果を2報の国際学術誌へ投稿した.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
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