研究課題/領域番号 |
21K14049
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
和田 健太郎 福岡大学, 工学部, 助教 (50881124)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 純ニッケル / 水素脆化 / 粒界破壊 / 引張試験 |
研究実績の概要 |
研究の初年度となる2021年度においては,硫黄を意図的に添加した純ニッケルを用いて,硫黄による粒界結合力の低下挙動,水素による粒界結合力の低下挙動およびその相互作用を調査した.硫黄は水素と同様に結晶粒界へ集積しニッケルの粒界強度を低下させる元素として報告されている.加えて,結晶粒界へ偏析した局所硫黄濃度の定量分析は比較的簡易に実施可能である.こうした特徴から,これら元素による純ニッケルの粒界破壊の助長挙動を網羅的に調査し比較することで,水素による純ニッケルの延性低下メカニズムの更なる理解につながると期待される.加えて硫黄自体はニッケル合金に不可避的に含まれる不純元素であり,硫黄によりニッケルの水素脆化が助長される挙動を定量的に理解することは実用上も重要である. 研究状況として,2021年度には当初の計画通り,試験片の作製,水素吸蔵特性の測定および結晶粒界への硫黄および水素の集積挙動測定を実施した.その結果,粒界偏析した硫黄量と結晶粒界に集積した水素量との間に相関が認められることが明らかとなった.さらに計画していた引張試験を一部実施し,硫黄および水素による粒界結合力の低下およびそれに伴う延性低下挙動を解明した.これらの実験においてはおおよそ期待した通りの結果が得られている.一方で,水素と硫黄が相乗的に水素脆化を助長する効果はわずかであるという,従来研究における指摘とは逆の結果も得られており,現在より詳細な実験を計画している.また,これらの結果を基に国内誌への論文の投稿準備を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,A: 結晶粒界への水素集積挙動の分析およびB: 純ニッケルにおける粒界強度の低下挙動測定 の2つのパートに分けて遂行している.Aパートにおいて2021~2022年度に計画している結晶粒界における局所水素濃度の定量分析のうち,2021年度には水素放出プロファイルを用いたトラップ水素量の分析が完了した.またBパートにおいて2021~2022年度に計画している力学試験のうち,マクロスケールでの試験である引張試験を70%程度遂行している.A・Bいずれのパートにおいてもおおむね当初の計画通り実験が進んでおり,これらの結果を基に2022年度に実施予定のより発展的な実験に移行する計画である.以上の状況から,進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には,前年度に引き続き引張試験を実施する.加えて微小領域における水素濃度分布の可視化に着手し,結晶粒界への水素の集積と粒界強度の低下との対応について調査していく.さらに,硫黄による延性低下と水素による延性低下の類似性に注目し,水素によりニッケルの粒界破壊が助長され,延性が低下する要因を議論する計画である. 加えて,結晶粒界に沿って材料内部へ侵入した水素および粒界偏析した硫黄にトラップされた水素が強度特性に及ぼす影響についても調査を計画している.
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次年度使用額が生じた理由 |
学外での実験のための旅費を計上していたものの,新型コロナウイルスの蔓延状況および研究代表者の私的な状況を踏まえ,実験を次年度に延期することとした.そのため,2021年度に旅費として使用する予定だった金額の一部を2022年度に繰り越し,当該年度において旅費として使用する計画である.
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