今年度も一昨年度確立した「時間依存強度」及び「時間非依存強度」の評価手法を用いて,主としてAl合金巨大ひずみ加工材の評価を実施した.主な研究実績は以下の通りである.1.Al合金でも巨大ひずみ加工(ECAP加工を使用)を繰り返すことで結晶粒はサブミクロンオーダーまで微細化する.しかしながら,巨大ひずみ加工により付与する相当ひずみと結晶粒微細化の関係は永久的に継続するわけではなく,一定の相当ひずみを上回ることで粒径の微細化が停滞する.2.巨大ひずみ加工によって付与する相当ひずみに応じて,各材料の応力緩和挙動(応力―緩和時間関係)は大きく変化する.極限まで結晶粒が微細化されたサンプルでは,弾性限度付近でも応力緩和時の残留応力率が試験開始時の50%まで低下した.3.同サンプルにおいて,一般的なひずみ速度(0.01 /s)の単軸引張試験から得られる0.2%耐力を占める時間非依存強度の割合は約40%であった.加工プロセスの違いに応じて0.2%耐力を占める時間依存強度と時間非依存強度の割合は大きく変化し,低温焼鈍を施すことで0.2%耐力を占める時間非依存強度の割合が大きく回復する.これまで,巨大ひずみ加工金属材料は構造材料への適用を視野に多くの研究がなされてきており,材料強度の評価は時間非依存強度を想定していたものが大半であったと考えられる.しかしながら,工業用純金属や一部の合金において,巨大ひずみ加工は金属材料に対して著しいひずみ速度依存性を付与し,時間依存強度の増加をもたらすことが明らかにされた.今後,構造材料として期待される材料において,その力学的特性を正確に評価するためには,時間非依存強度を評価することが重要であることを実験事実をもとに示唆した.
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