研究課題/領域番号 |
21K14052
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
山田 洋平 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (60756899)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | レーザスライシング / 非球面レンズ / 内部加工 / レーザ割断 / 超精密加工 |
研究実績の概要 |
ガラスのレーザスライシングとはガラス内部をレーザ改質することにより応力層を形成し,その応力層内部で亀裂を伝播誘導させることにより,ガラスを3次元的に割断する技術である.先行研究によって,光学レンズの成形に成功しているが,き裂伝播を制御できず加工精度に課題を抱えていた.そこで,本研究課題では,き裂伝播メカニズムの解明およびき裂伝播制御手法の確立を目的として研究を行っている.本年度は,き裂伝播メカニズムの解明を主題に研究を行った. まず,複屈折応力評価装置を用いてガラス内部の改質層の応力評価を行った.まず1本の加工痕を解析したところ,加工痕周囲に大きな残留応力が形成されていることが明らかになった.これは,レーザによってガラスが急熱・急冷されることで,膨張状態のまま保持されていることを示している.この加工痕を複数並べていくことによって,均一な応力層が形成されていくことが明らかとなった. 次に,残留応力の方向とき裂伝播メカニズムを明らかにするため,FEMによる解析を行った.非定常熱伝導解析を行いレーザスライシングの状況を模擬したところ,改質層中心は膨張により強い圧縮応力.その周囲に引張応力が形成されることがわかった.また,き裂を外部から導入すると,膨張が解放され,ガラス試料が反り,き裂先端に応力集中が発生することが明らかとなった. 得られた知見をもとにき裂伝播メカニズムを以下のように推定した.ガラス内部にレーザを照射することによって局所的に膨張する.これにより加工痕内部には圧縮応力,その周囲に引張応力が残留する.これを面状に形成していくことにより,ガラス内部には引張応力層・圧縮応力層・引張応力層の3つの残留応力層が形成される.試料端部に初期き裂を導入すると,膨張が解放され,ガラスは互いに反るように変形する.この反りによってき裂先端の応力拡大係数が増大し,き裂が伝播していくと考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は,①き裂伝播メカニズムの解明.②き裂伝播制御手法の確立.③非球面レンズの成形.という展開を計画している.き裂伝播メカニズムの解明が想定より順調に進んだため,予定を繰り上げ,現在,き裂伝播制御手法の考案と非球面レンズの成形に挑戦している.解明されたメカニズムをベースとし,き裂伝播制御に直結する要因を洗い出し,非球面レンズ成形実験に落とし込むことで,形状精度向上を図っている段階である.
|
今後の研究の推進方策 |
き裂伝播制御手法の確立に挑戦する予定である.昨年度研究において,き裂伝播メカニズムはほぼ解明できた.そこから「残留応力層の強度分布とガラスの反り」が重要であると導きだした.これにはレーザ集光点のビーム強度分布に強い相関があり,材料内部でのレーザ集光状態を制御する必要があると考えた.そこで,第1段階として,球面収差制御を試みる予定である.レーザスライシングにおける球面収差とは,ガラス試料の屈折による,材料内部での集光点のズレを意味している.収差を補正して,1点に集光することで,応力層は薄く強く形成される.また,反対に,収差を増やして,意図的にエネルギ密度を下げることで,応力層を厚く弱くするなどの制御が可能になる.この球面収差制御によって反りが変化するため,レンズ形状に適した応力層を実験とFEMを通して明らかにする予定である.次に,第2段階として,回折光学素子または空間位相変調による詳細な集光点制御を行うことで,非球面レンズ成形における,高精度化を目指す.
|
次年度使用額が生じた理由 |
有限要素法解析ソフトの年間ライセンス料が割引により,計画時より安く入手できた.新型コロナウイルス感染状況により,学会がオンライン化し,予定していた旅費を全く使用しなかったことが原因で,予算使用計画を変更した.研究の進捗が計画より順調に進んだこともあり,次年度分を繰り上げて使用したが,コンテナ不足による購入予定品の納期延長により間に合わなかったため.
|