ガラスのレーザスライシングとはガラス内部を超短パルスレーザによって改質することにより応力層を形成し,その応力層内部で亀裂を伝播誘導させることにより,ガラスを3次元的に割断する技術である.先行研究によって,単純形状の光学レンズの成形に成功しているが,き裂伝播を制御できず加工精度に課題を抱えていた.そこで,本研究課題では,き裂伝播メカニズムの解明およびき裂伝播制御手法の確立を目的として研究を行っている.本年度は,き裂伝播メカニズムの解明とレンズ成形手法の確立を主題に研究を行った. き裂伝播メカニズムを解明するためにFEMを用いたガラス内部の応力解析と,複屈折応力評価装置を用いた実現象の比較を行った.その結果,以下のメカニズムが明確となった.1)超短パルスレーザのガラス内部照射による改質によって,レーザ集光点では体積膨張が生じ,改質層内には圧縮応力,その周囲に引張応力が生じる.2)改質層をレーザ走査によってガラス内部に面状に並べていくことにより,改質層間の光軸方向の引張応力が帯状に連結・蓄積していく.3)帯状の改質層内の最大引張応力となる付近でき裂伝播が開始する.4)き裂伝播にともなう応力の解放によって,表面に残存した改質層の剥離面と平行方向の体積膨張によってガラスに反りが生じる.この反りによってき裂を開口させる方向に応力集中が生じ,き裂伝播を駆動・継続させる.このメカニズムを基に,レーザ照射条件を同定し非球面レンズ成形を試みた.その結果,直径30mmの非球面レンズ成形に成功した.剥離後のレンズは十分な透過性を有しており,10nmRa以下の鏡面状態となったが,形状精度は約50 umPVとなり,目標とする1umPVには及ばなかった.これは,剥離時の強制的な引張力による,外周部の割れによる段差が原因であると考えられ,剥離手法を考案することにより解決できると考えている.
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