本研究の目的は従来高規模に集積された計算機でしかシミュレーションができなかった非定常サブクール沸騰におけるの熱伝達の様子を「低次元セルオートマトン法」により超低負荷で計算する手法を開発することである.低負荷の計算によりサブクール沸騰が内包する「複雑性」(~繰り返し不安定性)を繰り返し計算にて解けるようになる.これを産業的に活用すると,熱処理工程で問題になる繰り返し品質ばらつきや,種々冷却・熱輸送装置の不安定性等がMBD(モデルベース開発)上で取り扱えるようになる. 本研究では初年度にセルオートマトンの構築を行い,2年目にその検証と,実部品形状への拡張を行った.蒸気膜崩落の様子を観察する事で確認できたマルコフ性をセルオートマトンに織り込むことで実際の蒸気膜崩落や焼入変形予測,またその繰り返しバラツキを精度よく予測可能な事が確認でき,当初計画の予定が達成できた. 3年目である2023年度は本内容を発展させ集団荷姿との連成を試みた.層流を仮定したCFDにより集団荷姿での部品表面の蒸気膜へかかる力を予測し,これを境界条件として付与したセルオートマトン計算する手法を実装した.CFDとの連成をしない場合不安定性を示していた蒸気膜崩落がCFDとの連成により部品表面の場所によっては不安定性がなくなり,場所によっては不安定性が残るという変化を示した. これにより低次元セルオートマトン法の集団荷姿への適用可能性が確認できたので,実際の集団荷姿での熱処理変形や蒸気膜崩落状態分布の確認を行った.CFDと低次元セルオートマトンを組み合わせた計算により,直径180mmのリング形状部品において熱処理変形分布を再現する事が出来た. 以上の事により,量産熱処理工程に於いて行われる集団荷姿での焼入れで起こる熱処理変形バラツキやその繰り返し変動をシミュレーションにて再現する事に成功した.
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