本研究課題(2年計画)の目標は、微小気泡を造影剤として用いる医用超音波診断・治療技術のための新たな音波照射法の提案と基礎実験による有効性の検証である。本手法では、超音波フェーズドアレイの各素子の駆動位相を部分的に反転させ、空間的なパターンを形成した照射音波を気泡群に照射することで気泡群の振動応答を変化させる。 本年度(令和4年度)は、(1)異なる照射パターンに対して気泡群の音響散乱強度を可視化し、(2)気泡力学モデルに基づく数値シミュレーション結果との比較によって提案する音波照射法の有効性を検証した。 まず、前年度に構成した実験系を用いて気泡群の後方散乱を多点計測し、これらの遅延加算により音響強度の断層像を生成した。その結果、異なる照射パターンに対して、散乱音場の強度およびその空間分布が変化することを確認した。パターン照射を行った場合の特徴的な傾向として、照射音波の振動位相が反転する境界(音圧振幅が極小になる線)に沿って、この境界付近に位置する気泡由来の音響散乱が、単純な平面波を照射した場合よりも大きくなることを確認した。これにより、音源からより離れた深部において、平面波では検出されない気泡の音響散乱が検出されることを確認した。数値シミュレーション結果も同様に、パターン照射を行なった場合に、音源から遠い位置の気泡の散乱強度が増加する傾向を示し、実験結果との定性的な一致を得た。本実験では、異なる照射パターンによる可視化結果を比較するために、気泡を寒天中に長時間固定する必要が生じたため、当初使用予定であった超音波造影剤の代わりにポリマー殻で覆われたマイクロカプセル(直径10±2 μm)を用いた。今後、造影剤気泡を用いた原理検証を実施する必要がある。
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