研究課題/領域番号 |
21K14086
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
松川 嘉也 東北大学, 工学研究科, 助教 (30882477)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多環芳香族炭化水素 / すす / 熱分解 |
研究実績の概要 |
燃焼を通じて生成する微粒子であるすすはふく射などにより燃焼状態に大きな影響を及ぼすほか、健康に悪影響を及ぼすために、その生成機構について、古くから議論されてきた。長年の研究により、多環芳香族炭化水素が前駆体となり核生成をすることですすの粒子核ができることが定説となっているが、実験結果からの推察であったり、数値解析による検討であり、多環芳香族炭化水素からどのような速度ですすが生成するのかを検討した例はなかった。 令和3年度は、多環芳香族炭化水素を気化フィードし、熱分解実験を行うための実験装置を新たに構築し、多環芳香族炭化水素を2%以内の安定供給できることを確かめた。しかし、熱分解反応炉までの配管におけるデポジットが多く、配管の加熱・保温を強化するなど対策を行うことで、気化フィード装置を完成させた。確認として、常温で液体であるベンゼンを供給し、シリンジポンプによりベンゼンを供給した場合と同様の結果が得られることを確認した。気化フィード装置を用いて原料を供給し、熱分解反応炉を通じて生成したすすを粒度分布測定装置により測定することで、多環芳香族炭化水素のみを熱分解したときのすすの生成挙動について初めて明らかにした。具体的には、ナフタレン、アントラセンについて、熱分解実験を行ったところ、アントラセンを原料とした場合には、きわめて低濃度、低温であってもごく短い時間で核生成に至り、すすが生成することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度に予定していた気化フィード装置の構築が完了し、実験結果を得られた。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度はさらに実験条件を変化させて、多環芳香族炭化水素からのすす生成メカニズムを明らかにする。具体的には、すすが生成しない条件とわずかに生成する条件との境目(Sooting Limit)を見つける。温度を1500~1700℃で変化させたときのSooting Limitを探索し、①核生成メカニズムを明らかにする。Sooting Limitを境に低温側ですすが生成するのであれば,原料としたPAHでは物理的二量化をきっかけに核生成が起こっていると判断できる。高温側ですすが生成する場合は単純でないが、Sooting Limit付近のすすは生成したての粒子核に近いので,溶媒抽出にかけて構成成分を分析したり,結晶化度を分析したりすることで核生成メカニズムを検討する。また,PAHのフィード濃度に対するSooting Limitを検討することで,②それぞれPAHが核の前駆体となるために必要な濃度目安が明らかになる。次に、粒度分布に明確な対数正規分布が現れるほどの濃度・滞在時間とすることで十分に成長したすすを生成させる。粒子を分級し、単一の粒径のすすを得て,原料のPAHによるすすの性状の違いを比較することで、③核となるPAHsの分子量・化学構造とすすの性状との関係を明らかにする。 実験条件を変化させるにあたり、原料である多環芳香族炭化水素の露点がより高くなる実験条件では、現状の装置では配管におけるデポジットが避けられない。そこで、配管におけるデポジットを避けられるように原料フィード装置のカスタマイズを合わせて実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果報告を予定していた学会がオンライン化したことに伴い、オンサイトで行われるであろう学会での報告に切り替えたため、学会発表分の旅費が次年度にずれ込んだ。
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