研究課題/領域番号 |
21K14088
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
李 敏赫 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80828426)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 冷炎 / 低温酸化反応 / 壁面の化学的効果 / HCHO / PLIF / TDLAS |
研究実績の概要 |
本研究では,壁面安定化冷炎のコンセプトを利用して,冷炎の可燃特性および冷炎における壁面の化学的効果を調べた.まず,燃料の炭素鎖長が冷炎に及ぼす影響を調べるため,衝突壁の温度を一定の速度で上昇・降下することにより,壁面近傍で冷炎を着火・消炎させた.冷炎の着火・消炎過程は,平面レーザ誘起蛍光法(PLIF)を用いたHCHO濃度変化計測により同定した.さらに,冷炎に対する壁面の化学的効果を調べるため,衝突壁表面にMEMS技術を用いて200 nm厚の金属もしくは金属酸化物の薄膜を形成し,熱的境界条件を一定に保ったまま化学的境界条件のみの変更を可能とした.燃料は,ヘプタン(C7)からデカン(C10)までの直鎖型アルカンを用い,石英,鉄,ルテニウムなどの材料の影響を調べた.その結果,炭素鎖長および酸素濃度の増加に伴い冷炎の着火・消炎温度が低下する結果を得た.また,石英表面に比べて鉄やルテニウム表面では冷炎の着火・消炎温度が最大100 K程度高くなり,金属における表面反応により低温酸化反応が抑制されることを明らかにした.一方,ルテニウム表面については,炭素数9以下の燃料では消炎・着火過程にヒステリシスが現れるが,デカンの場合はヒステリシスが失われ,また炭素鎖長の増加に伴い壁面の化学的効果が弱くなることを示した. 一方,冷炎着火特性に対する圧力の影響を調べるため,高圧環境下で冷炎の形成を可能とする実験系を構築した.冷炎中のHCHO濃度計測の定量性と時間分解能,感度の向上を目的として,半導体レーザ吸収分光法(TDLAS)を新たに導入した.また,レーザ光軸上において一定濃度場を形成するため,スリットノズルバーナを用いて二次元冷炎を形成した.計測の結果,圧力の上昇に伴い,DME冷炎の着火温度が増加するとともに同一温度におけるHCHO濃度が低下し,低温酸化反応の開始および進行が抑制されることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで,冷炎の着火・消炎をコントロールするための実験系,および高圧環境下でHCHO濃度計測を行うための実験系の構築を完了し,これらを用いた予備実験による計測手法の確立および初期データの取得を行ってきた.研究代表者の「壁面安定化冷炎を用いた低温酸化反応の研究」に対する業績が認められ,2021年度の日本機械学会奨励賞(研究)の受賞が決定している.また,直鎖アルカン燃料の冷炎,および高圧環境下におけるTDLAS法による冷炎着火の計測に関する内容で,現在2編の論文投稿を準備中である.
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今後の研究の推進方策 |
これまで,冷炎挙動の同定にHCHO分子を主に用いていたが,低温酸化反応のより初期段階に現れる冷炎中間生成物の計測を行うことにより,気相反応モデルの精緻化を試みる.また,金属による直鎖アルカン燃料の低温酸化反応の抑制効果を説明するため,冷炎に適用可能な表面反応モデルの検討を行う.一方,TDLAS法によるHCHO濃度計測の精度向上には,ガス温度のデータが必要となるため,Two-Line H2O-TDLASによる温度計測を検討中である.
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定した装置を既に保有していた機器で代用でき,Covid-19の影響により当初予定していた出張ができなかったため.
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