本研究では,壁面近傍における冷炎の燃焼特性に対する,燃料,壁面の化学的効果,圧力などの影響を系統的に調べた.壁表面にMEMS技術により調査対象の材料を成膜することで壁面の化学的活性を制御し,一定の温度もしくは割合で加熱される壁面に燃料と酸化剤の混合気を衝突させることで,壁面安定化冷炎を形成した.冷炎中のHCHO分子の濃度変化を平面レーザ誘起蛍光法(PLIF)および半導体レーザ吸収分光法(TDLAS)により計測することで冷炎の挙動を同定するとともに,飛行時間型質量分析計(TOF-MS)を用いた多種化学種の同時分析を行い,以下の結果・知見を得た. 1. 炭素数7~10の直鎖アルカン冷炎の場合,SiO2表面に比べてFeやRu表面では着火・消炎温度が最大100 K高くなることから,金属の表面反応が低温酸化反応を抑制することを明らかにした.Ru表面では,炭素数9以下の燃料では消炎・着火過程にヒステリシスが現れるが,デカンではヒステリシスが失われ,炭素鎖長の増加に伴い壁面の化学的効果が弱まることを示した. 2. DME冷炎の場合,圧力の上昇に伴い同一壁温におけるHCHO濃度が低下し,着火温度が増加するが,直鎖アルカン冷炎の場合は,圧力の上昇につれ同一壁温におけるHCHO濃度が増加し,着火温度が減少する.したがって,燃料の種類によって低温酸化反応に対する圧力の効果が異なることを明らかにした. 3. DME冷炎中のHCHO,CO,CO2の濃度分布は,低温反応性を抑えた既存の詳細酸化反応モデルによる数値解析結果と定量的に一致するが,CH3OCHOの分布は現存するモデルで適切に予測することができず,更なる反応モデルの精緻化の必要性が示唆された.一方,冷炎の着火過程においてCH3OCHOの濃度が他の化学種より低温領域で減少し始めることから,化学種によって異なる温度領域でNTC効果が現れることが判った.
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