本研究期間中は,表面ふく射効果が自然対流境界層に及ぼす影響を明らかにするために,光干渉計を用いた境界層可視化実験を行った.可視化実験から,放射率が高くなる際に壁面での温度境界層生成によって温度分布が均一化することを実験的に証明することができた. 本現象はこれまで,数値解析の観点から議論されてはきたが,本研究によって定量的にその性質を明らかにすることができた.また本研究期間中は,自然対流境界層そもそもの不安定性メカニズムについて数値解析および,線形不安定性解析の観点から議論した.速度および温度の擾乱方程式に基づく数値解析を行い,微小な速度,温度摂動に基づく固有値分布の比較を行った.さらに数値解析では,擾乱方程式中の浮力項および粘性項をスイッチングすることによって,自然対流境界層が粘性不安定であるか,変曲点不安定であるのかの特定を試みた.解析の結果,自然対流境界層は粘性不安定ではなく変曲点不安定ライクな境界層不安定であることが明らかとなった.本知見は申請者によって示唆された「ふく射伝熱効果によって変曲点のせん断速度の減少による境界層の安定化」を支持するものである.本研究期間全体に渡っての研究結果から,自然対流境界層は変曲点不安定にもとづいて不安定化し,その不安定性はふく射性媒体のふく射吸収による自己発熱によって制御可能であることが見出された.本知見はふく射伝熱を応用した新しい境界層制御技術の創成に貢献すると考える.
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