研究課題/領域番号 |
21K14112
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研究機関 | 大分工業高等専門学校 |
研究代表者 |
中野 壽彦 大分工業高等専門学校, 機械工学科, 准教授 (50748986)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 懸垂物体 / 制振 / バイアスモーメンタム方式 / モーメンタムホイール / リアクションホイール / コントロールモーメントジャイロ |
研究実績の概要 |
ロープやワイヤーで懸垂された吊り荷を扱う機械システムでは制振が要求される場合が多く,様々な手法が研究されている.しかしねじれ振動と揺れ振動が同時に生じる多自由度懸垂物体の制振に関する研究は僅少である.本研究ではモーメンタムホイールでバイアス角運動量を付加し,そのジャイロ効果を利用してより少ない制御入力でねじれ振動と揺れ振動を同時に減衰させる,バイアスモーメンタム方式に基づく制振手法を提案する.本手法は装置の小型化・簡易化・耐故障性向上の面で優れ,成層圏気球や小型飛翔体吊り荷の高効率・高精度な制振を可能とする.本研究では二通りのアクチュエータ構成を想定し,ダイナミクスの定式化と制御系設計を行い,本手法で多自由度懸垂物体の制振が可能であることを実証する.また懸垂物体パラメータと制振装置仕様が制振性能へ及ぼす影響を分析し,搭載機器の小型・軽量化のための最適設計条件を解明すること目指す. 令和4年度は主として①運動モデル・制御則の改良および線形近似モデルの導出,②数値解析による制振機能の確認と制御パラメータが制振性能に及ぼす影響の分析,③実験装置の改修と動作確認,の点について研究を進めた.改良した運動モデルによって,物体の角速度の値をフィードバックする制御則を新たに構築できた.また線形近似による簡易な運動モデルを導出し,シミュレーションで厳密な運動モデルとそれほど差がないことを確認した.条件を変えながら制振のシミュレーションを行い比較・分析した結果,最適な制御ゲインの選択により理想的な制振効果が得られることが確認された.制振実験にむけて実験装置を制作して動作確認を行い,基本的な機能が達成できることを確認した.以上の成果について国外1件の学会にて研究成果発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①運動モデルの修正と制御則の再設計:昨年度のモデルでは,オイラー角の微分の値を用いた制御となっていた.一方,実機で制御を行う場合はIMUセンサで物体の運動を検出するため,センサから直接得られる物体の角速度値を用いた制御であることが望ましい.そこで,ホイールの角運動量ベクトルを考慮した運動方程式を新たに導出し,それに基づいて制御則の設計を行った.これにより物体の角速度値を用いた制御で制振が可能であることを解析的に示した.また制御パラメータと制振効果の関連を解析的に明らかにするため,運動モデルを平衡点近傍で近似線形化した簡易な運動モデルを導出した.一方,後述する実験装置制作の遅延の影響で研究時間が不足し,CMGを用いる手法に関しては理論の検討は先送りとした. ②数値シミュレーションによる解析:厳密な運動モデルと近似モデルのシミュレーションの結果を比較した.その結果,両モデルの結果にほとんど差が無く,近似モデルでも運動解析ができることを確認した.また制御パラメータを変えながらシミュレーションを繰り返し,結果を比較・分析した.その結果,揺れ方向では制御ゲインを最適値に設定すれば高い制振効果を得られることと,その最適値は懸垂物体に付与するバイアス角運動量の大きさで決まるということが確認できた. ③実験装置の開発と動作確認:より大きな角運動量を発生させるようにするため,モーメンタムホイールのサイズアップを図った.また昨年度の設計に基づいて電気系を制作した.当初は,年度前半で装置を完成させ,後半で実験を行い実験データを収集する予定であったが,実験装置の準備の過程で機械構造の細かい設計変更や電気系・制御系の開発の遅れにより,年度末まで制作期間を延長した.年度末の段階で,基本的な動作確認(アクチュエータ制御とセンサ値取得)を終えるところまで完了したが,制振実験の実施までには至らなかった.
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今後の研究の推進方策 |
①CMGによる制振手法について理論構築を進める.可変速CMGのステアリング則と制御則を設計し,解析と数値シミュレーションによって制振が達成できることを確認する. ②数値シミュレーションから示唆された「最も高い制振効果を得るための制御パラメータの最適値」について詳細を追求していく.線形近似モデルをベースに,バイアス角運動量と制御ゲインの2つのパラメータが,制振効果にどのように関わるかを解析的に明らかにしていく. ③実験装置用の制御ソフトウェア製作・実装を進める.準備ができ次第,モーメンタムホイール・リアクションホイールによる制振の実験を行い,想定している制振の機能が実現できることを実証する.十分な実験データが得られれば,引き続き,CMGによる制御についても同様の実機実験を行いデータを取得する.なお,当初の計画では研究期間は3年間であり,令和5年度が最終年度となるが,これまで実機実験の準備が遅延していることから,CMGを用いた手法に関しては実機実験による実証を研究期間中に完了させることができない可能性がある.そのため,研究期間を延長することも視野にいれている.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度前半で,実機実験装置の完成を目指していたが,機械構造の細かい箇所の再設計と再制作や,電気系・制御系の実装作業が想定より遅れてしまい,年度末まで完成が遅れた.またその過程で,モータの故障が発生して予備品の在庫がなくなってしまったため,今後の不測の事態への備えのためモータ予備品を調達しようとした.しかし納期が長く年度を越えてしまうことが見込まれたため,次年度に繰り越して調達を行うことにした.また聴講や研究成果報告のため学会に参加したものの,コロナ禍のためオンライン参加となったため,当初旅費として計上していた経費の大半が残り,繰り越すことになった. 令和5年度は,繰り越した経費を使用して,まず調達できていない物品の調達を行う.また,雑誌論文や国内外の学会など,研究成果報告の際の経費として使用する.多くの学会・講演会で対面開催が主流となりつつあるため,参加時の旅費として経費を使用したいと考えている.また実験装置準備の遅れのために,特にCMGによる制御手法に関する研究成果の一部は,令和5年度中に成果報告まで至らない可能性がある.場合によっては,成果報告のために研究期間を一年間延長して,再度経費を繰り越して使用することも検討している.
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