軌道変位(レールのゆがみ)は鉄道車両の通過の繰り返しなどに伴い発生し、走行安全性に影響する。営業車両を用いて日常的に軌道状態を監視する手法が提案されているが、軌道変位の中でも軌間変位(左右レールの間隔のずれ)の推定手法は明らかでない。本研究では、営業運転中の車両内に設置可能な小型で安価なセンサで日常的に計測可能な車体振動加速度及び角加速度の計測値から、軌間変位が増大している可能性がある箇所を特定するシステムを構築する。 令和3年度は一般的な在来線車両の車両運動シミュレーションによって、各種軌道変位と車体振動加速度や角速度の値の関係についてのデータを収集した。 令和4年度は実測データをもとに軌間変位と高低変位(レールの上下方向の変位)及び車体上下加速度の関係にもとづいて検討を進め、上下加速度の最大値が大きい曲線部で軌間変位の検測結果の最大値も大きい傾向が認められた。車体上下加速度のデータを曲線部ごとに整理することで、路線内に多数ある曲線部から軌間拡大箇所を有すると思われる曲線部を抽出する方法を提案した。上記手法で検出した曲線部の現地において状態を確認したところ、まくらぎの劣化がみられ、さらにレールに横圧を載荷する試験を実施したところ、横圧を受けると軌間が動的に拡大しやすい箇所であることを確認した。 鉄道の軌間変位と車体動揺との関係は複雑であるが、両者の関係について車両運動シミュレーションや実測データを用いて多くの事例を収集したことで、車体動揺メカニズム解明のための有用な知見を得た。提案手法によって営業車両で低コストかつ高頻度に軌間の状態を把握すれば、高価な軌道検測車等を使用することなく日々の営業列車による計測から軌間変位が拡大している可能性のある箇所を効率的に特定でき、鉄道の走行安全性の維持に寄与できる。
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