研究課題/領域番号 |
21K14125
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
山野井 佑介 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 特任助教 (40870184)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 筋電義手 / 運動機能解析 |
研究実績の概要 |
人の手は20関節24自由度あると言われており,汎用性高く巧緻な作業を行うのに適している.筋電義手や人工拡張子など,近年,人の手を模したウェアラブルロボットが急速に進歩しているが,未だ健常の手とは比し難く機能が制限されている.このような試みにおいて複雑な機構の再現も然ることながら,生体信号からの多自由度の制御法の確立が大きな課題となっている.そこで本研究では多くの動作意図を抽出可能で他の運動を阻害しにくい筋電位を対象として,筋シナジー仮説に着目し,人の手の運動機能解析と多自由度ロボットハンドでの手指運動の連続制御を目指す. 本研究を行うにあたり,以下の4つの小目標を定めた.a)筋活動と手指運動の同時計測による筋シナジーの解明,b)基底となる筋シナジーを用いた義手制御モデルの機械学習的獲得,c)健常者と切断者の筋活動の相関解析,d)実機・シミュレーションでのオンライン評価.その内,1年目に当たる令和3年度ではa)及びb)を中心に研究を進める実施計画を立てた. 令和3年度の研究においては,計算機,筋電センサ,画像認識型3Dモーションキャプチャ,ADコンバータ等を用いて筋活動と手指運動の同時計測環境を構築し,健常者が手指運動を行っている際の筋活動と手指関節角度を同時計測により収集し,データセットを構築した.また,並行してGANの生成器と識別器の構築を行った.しかしながら,ハイパーパラメータの設定に時間を要しており,筋活動と関節角度との対応関係の解析に関しては進捗が遅れている. 一方,3年目に行う予定であったd)に関して,5指駆動型筋電義手の開発を行い,旧来のパターン認識型識別器もしくは3Dモーションキャプチャの手指関節角度情報を用いてこの義手を制御することに成功した.このことは今回新たに開発する識別手法を実機を用いてオンライン評価する環境が構築できたことを意味する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は主にa)筋活動と手指運動の同時計測による筋シナジーの解明,b)基底となる筋シナジーを用いた義手制御モデルの機械学習的獲得の2つの小目標を中心に研究を進める実施計画を立てた. 計算機,筋電センサ,画像認識型3Dモーションキャプチャ,ADコンバータ等を用いて筋活動と手指運動の同時計測環境を構築し,健常者によって筋活動と手指運動の同時計測によりデータセットを構築した.また,並行してGenerative Adversarial Network (GAN)の生成器と識別器の構築を行い,先のデータセットを用いて生成器及び識別器のテストとハイパーパラメータの調整を行った.GANは生成器と識別器を敵対的に学習させ競わせることによって人が区別できないほど高度な生成器を機械学習的に獲得するDeep Learningの一種であり,入力された筋電位に対して教師データと区別がつかないような関節角度を生成する生成器を得られることが期待される.現在,ハイパーパラメータの調整に時間を要しており,筋活動と関節角度の対応関係の解析に関しては進捗が遅れている. 一方で3年目に行う予定であったd)実機・シミュレーションでのオンライン評価に関して,5指駆動型筋電義手の開発を行い,旧来のパターン認識型識別器もしくは3Dモーションキャプチャの手指関節角度情報を用いて,この義手を制御することに成功しており,実使用環境下で義手制御手法をオンライン評価できる環境が整った. また,令和3年度は筋電義手に関する研究に関して,英文学術雑誌 1件,国際学会 3件,国内学会 6件の研究成果発表を行った.GANのハイパーパラメータの調整が遅れており,本年度は被験者(上肢切断者)を用いての実験をあまり実施することが出来なかったため,次年度以降,臨床評価を増やす予定である.
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今後の研究の推進方策 |
GANはDeep Learningの一種であり,ハイパーパラメータは扱う対象によって経験的に決めなければならない.生体信号は画像や音声と比較してとても不安定な信号であるため,パラメータを試行錯誤的に決定するのにどうしても時間が掛かってしまっており,筋活動と手指関節角度の関連性の解析が遅れている.そのため,一旦,データセットの内で対象とする動作を制限したり,人工データを用いることによって対象モデルを簡略化してハイパーパラメータを探索・最適化し,そのパラメータを中心に本来のモデルのパラメータ探索を行うことを予定している. 2年目に当たる令和4年度は実施計画通りc)健常者と切断者の筋活動の相関解析を中心に研究を進める.現在,健常者のデータセットに関しても人数が限られており,また,上肢切断者に対してデータ収集が行えていないことから,GANのパラメータ調整と並行して,健常者,上肢切断者共に筋活動と手指関節角度の同時計測を行いデータ収集を進める.上肢切断者は断端の状況などによって健常者と筋活動の傾向が異なる場合が多い.また,上肢切断者は切断によって手を失っているため手指運動を計測することが出来ない.そのため,Bilateral Trainingという両手のミラーリング動作によって健側・患側の運動を同期させ,患側の手指運動を推定する手法を用いる.実際に上肢切断者で計測を行う前に健常者を用いて予備実験をし実験プロトコルを確立する. 引き続き国内・国際学会での発表,ジャーナルへの投稿によって,研究成果の共有と社会還元に努める.
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次年度使用額が生じた理由 |
GANのハイパーパラメータの調整に時間を要しており,上肢切断者を対象とした被験者実験・臨床応用がほとんど行えておらず,本年度は既存の装置を使ってのデータ収集と解析が中心となった.次年度以降臨床応用を増やしていく予定であり,旅費や謝金として支出する.また,それに伴って,被験者に合わせた義手製作のための部品や実験環境・解析環境を構築するために物品費を支出予定である.
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