将来的な航空機の需要増加が予測される一方,航空機の生産を支えるヘラ絞りの職人が減少しており,職人の技術を再現可能な装置の開発は緊急の課題と言える。しかしながら,ヘラ絞りは力触覚に基づいた力及び位置の制御が必要であり,位置制御主体である従来の自動スピンドル加工装置とは異なる制御技術となる。そこで,本研究は「ヘラ絞りにおける職人の技術を自動装置によって再現可能であるか」を本研究課題の核心をなす学術的「問い」とした。本研究では,ヘラ絞りにおける実際のヘラ動作を計測・再現するためのマスタ・スレーブシステム型ヘラ絞り装置を開発する。 最終年度はマスタ・スレーブシステム型ヘラ絞り装置における電気回路の設計製作を行うとともにバイラテラル制御器の設計を行い,本装置の評価を行った。ヘラ絞り加工時大きな出力が必要であるため,マスタ・スレーブシステムそれぞれは複数のアクチュエータを有するパラレルリンクロボットによって構成されている。マスタ・スレーブシステムが異構造であるため,アクチュエータの位置情報である関節空間の運動情報ではなく,パラレルリンクロボットの手先位置である作業空間の運動情報に基づいてバイラテラル制御器を設計する必要がある。しかしながら,パラレルリンクロボットでは一般的に,運動情報を関節空間から作業空間に変換する順運動学を導出することができない。そこで,本研究ではニューラルネットワーク(NN)と非線形カルマンフィルタに基づいた順運動学モデルを構築するとともに,その順運動学モデルを用いたバイラテラル制御器の設計を行った。設計した装置に基づいてその有効性を確認した。 このように,従来導出することが難しかった順運動学モデルをNNと非線形カルマンフィルタによって構築可能であることを示してパラレルリンクロボットの制御技術に貢献したとともに,マスタ・スレーブシステム型ヘラ絞り装置の開発を行った。
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