昨年度は、従来の物理レイヤ暗号の理論を拡張し、送信パルス数が有限の場合の性能評価法を確立するとともに、量子暗号に用いられる安全性証明法を盗聴者の盗聴能力が物理的に制限されているとする物理レイヤ暗号と同様の状況に適用することで、情報理論的に安全な新しいプロトコル(見通し通信QKD)の導出を行った。 今年度は、後者の結果を論文としてまとめるのと並行して、大気ゆらぎを模倣することで、この現象が物理レイヤ暗号及び見通し通信QKDに与える影響の評価を行うための実験系整備を行った。ただし、大気ゆらぎの模倣は、提案時に想定していたホットプレートによるものでなく、実験室上での展開性を考慮して、可変形鏡とガルバノミラーによる方式に切り替えた。加えて、過去に7.8kmの光空間通信路で実施した量子通信実験のデータを解析することにより、量子ビット誤り率とシフト鍵生成速度、そして鍵生成速度といった、物理レイヤ暗号と見通し通信QKDの基本的な性能を特徴付ける諸量の評価を実施した。この実験を通して、-60dBmという低軌道衛星-地上局間の距離に相当する損失下においても、盗聴者の能力に応じた速度の情報理論的に安全な鍵共有が可能であることの見通しが得られた。この結果を以て、本研究課題の当初の目標はおおむね達成された。 今後は、この実験結果に関していくつかの学会発表を実施するとともに、投稿論文としてまとめていく予定である。
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