超音波画像診断装置はリアルタイム性・低侵襲性・簡便性の観点から様々な疾患の診断が可能な装置である。超音波を用いて生体内の断層像を形成するためには生体内の音速の情報が必要である。本研究では,生体内の音速分布を推定することで断層像の画質を向上させるとともに,肝臓内の音速分布推定による脂肪肝の定量評価法を開発することを目的としている。 2023年度は,肝臓内の音速を高精度に推定するために,音速推定に使用する血管の選定方法を検討した。これまでに明らかにした血管の大きさや走行角度が音速推定に与える影響を体系的に整理することで,実際の血管の大きさや走行角度が未知の条件下でも,超音波プローブ内における各素子での超音波受信信号の振幅特性や,超音波断層像上での見かけの血管の形状の情報から,音速誤推定を生じる条件を判定し除外する手法を開発した。 超音波を用いて生体内の組織構造を正確に把握するためには,生体内の音速の情報を知る必要がある。しかし,本研究課題では生体内の音速分布の真値が未知であることを研究の前提としているため,生体内の組織構造の真値の情報を事前に知ることはできない。本研究で開発した,音速の高精度推定のために使用可能な血管条件の判定法は,生体内の組織構造の真値の情報を必要とせず,実測可能な超音波受信信号の情報のみを使用する。そのため,本手法は実臨床でも使用できる方法であり,肝臓内音速分布の高精度推定に向けた重要な成果である。
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