内閣府はAI技術のさらなる革新のため,ムーンショット型研究開発制度を提唱し,「自ら学習・行動し人と共生するロボットの実現」を掲げている。その中で制御工学の分野では,未知環境下では良好な制御性能を得ることが難しい。しかし,良好な制御結果を得るための初期データ取得のためには,様々な条件でのシステム運用が望ましいが,一方で,それに関わる人的コストが生じる。したがって,いかに初期データを「大量に」かつ「容易に」取得するかが,今後のAI技術発展の鍵となる。 2021年度は,オフラインでデータを生成する際に課題となる,未知外乱の推定方法についても研究を進め,数値シミュレーションからその有効性を検証した。2022年度は,前年度に提案した手法の有効性を実機実験により検証した。具体的には磁気浮上装置を対象とし,独立成分分析を用いることで,未知外乱が含まれる場合でも良好に推定できることを確認した。このとき,システム同定が不要で,得られた閉ループデータから直接未知外乱を推定する方法を提案している。2023年度は,産業界においても重要な制御性能の迅速な劣化検出について研究を進めた。具体的には,CNN(Convolutional neural network)を用いて制御性能劣化の早期検出方法を提案し数値シミュレーションにおいて有効性を検証した。一方,オフラインデータ生成において,事前に想定したシステム変動下における閉ループ応答データの予測方法を提案した。具体的には,線形時変系の特徴をFIR型フィルタで表現し,システムパラメータが不要な閉ループ応答データ予測方法を提案し,そのデータをデータベースへ格納することで,従来のデータベース駆動型制御法よりも制御性能が向上することを確認した。
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