研究課題/領域番号 |
21K14190
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研究機関 | 久留米工業高等専門学校 |
研究代表者 |
田中 諒 久留米工業高等専門学校, 制御情報工学科, 助教 (60772423)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 台車型倒立振子 / カスケード型LADRC / 目標値応答 / ラウス安定判別法 / 極零配置図 |
研究実績の概要 |
本研究では,制御対象を台車型倒立振子,制御器をカスケード型LADRCとし,この制御系に対する安定解析および制御系の安定性を理論的に保証する,カスケード型LADRCパラメータの調整方針を明らかにすることを目的としている.ここで,制御入力は台車の水平方向にかかる外力,制御出力は台車の変位と振り子の角度とし,振り子の角度を直立させつつ,台車を任意の目標位置へ移動させることが制御目標である.制御対象の数理モデルを基に設計される,従来のPD制御とは異なり,本研究で用いるカスケード型LADRCは,制御対象の特性値再測定なしに設計でき,極めて優れた頑健性を有することから,種々の制御対象に対して広く応用でき,より広い学術,科学技術あるいは社会などへの波及効果が期待できる. 上記を踏まえ,令和3年度では,連続時間系カスケード型LADRC設計における,①速応性と制御入力の関係,②安定/不安定領域の可視化,③安定性の条件の理論解析,④制御対象の特性変化に対する頑健性の確認,⑤PD制御(従来法)との比較・評価について,研究遂行を予定していた.③では,台車の変位と振り子の角度に関する目標値と制御出力の関係を伝達関数で導出し,安定性に直接関与する極の位置について,理論解析とシミュレーション検証で互いに一致することを確認できた.④では,台車に錘を負荷することや,振り子を手で突くことをして,台車型倒立振子に特性変化があることを想定したシミュレーション検証において,従来のPD制御よりも優れた頑健性を有することを確認できた.⑤では,ノミナルと非ノミナル時の制御出力の差分の二乗積分(ISE)を導出し,台車型倒立振子の特性変化に対する頑健性について,従来のPD制御との比較および評価を行うことができた.一方,①と②では,カスケード型LADRCパラメータの調整方針が一部定まっておらず,現時点で未達の状況にある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前記【研究実績の概要】のとおり,LADRCパラメータの調整方針が一部定まっておらず,現時点で未達の状況にあるからである.1つのLADRCにつき,調整すべきパラメータの総数は,①制御入力の大きさを決定するパラメータ,②制御対象の一般化摂動に対する頑健性の強弱を決定する線形拡張状態観測器(以下,LESO)の帯域幅,③応答の早さを決定する制御則の帯域幅の3つである.本研究で用いるカスケード型LADRCでは,閉ループシステムにおける内側に振り子の角度に対するLADRCを,外側に台車の変位に対するLADRCをそれぞれ設計しており,調整すべきパラメータの総数は6つである.これら6つのLADRCパラメータは個々に調整できるため,調整可能なLADRCパラメータの組合せが極めて多く,最適な調整法が確立できておらず,調整が難航している.現在では,各LADRCパラメータに重み係数を設けることで関連付けを行い,より容易にLADRCパラメータを設定する工夫を凝らしており,最適なLADRCパラメータ組合せを探っている状況にある.
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今後の研究の推進方策 |
本研究における今後の研究の推進方策としては,未達事項である,連続時間系カスケードLADRCにおける,速応性と制御入力の関係および安定/不安定領域の可視化を行い,カスケード型LADRCパラメータの調整方針を明らかにすることが最優先事項である.これに加え,令和4年度では,離散時間系カスケード型LADRC設計における,①速応性と制御入力の関係,②安定/不安定領域の可視化,③安定性の条件の理論解析,④制御対象の特性変化に対する頑健性の確認,⑤PD制御(従来法)との比較・評価について,順次研究を遂行する予定である.これら①~⑤はいずれも,連続時間系カスケード型LADRCと同様の解析と検証方法をもって達成できると想定しており,年度内に遂行できるものと考えている.その後,令和5年度では,実際の台車型倒立振子を用いた実機実験をとおして,⑥実験環境の構築とモデリング,⑦カスケード型LADRCとPD制御(従来法)との比較・評価,⑧振り子を手で突いたときの頑健性の確認,⑨台車に錘を負荷したときの頑健性の確認,⑩斜面上での姿勢制御の検討を行う予定である.なお,これら①~⑩に加え,国際会議での研究成果発表および学術論文誌への掲載に向けて,論文執筆も並行して遂行を予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究において,次年度使用額が生じた理由は,研究の進捗がやや遅れているため,国際会議などでの研究発表が未実施の状況にあり,旅費分がそのまま未使用となっている.一方,物品費については,実機実験装置を一式調達し,概ね当該年度予算限度額近くを使用できたが,若干次年度使用額が生じている. 今後の使用計画であるが,令和4年度では,令和3年度の一部未達事項,および令和4年度実施分の研究成果について,それぞれ国際会議の場で研究成果発表を実施したく,学会参加費,英文校閲料,往復渡航費,宿泊費が必要となるため,請求した助成金の使用を予定している.また,本研究成果を和文もしくは英文論文誌にまとめたく,論文掲載料,別刷り代,英文校閲料が必要となるため,こちらも請求した助成金の使用を予定している.その他,実機実験で必要となる,錘などの一部消耗品の調達を予定しており,こちらも請求した助成金の使用を予定している.
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