研究課題/領域番号 |
21K14192
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡田 達典 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (50793775)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 銅酸化物超伝導線材 / 臨界電流 / 磁束ピンニング / 縦磁界効果 / 酸素欠損 |
研究実績の概要 |
希土類系銅酸化物超伝導線材を用いた大電流通電・強磁場応用が世界中で展開されており、臨界電流密度の更なる向上が強く望まれている。これまでに人工ピン導入が精力的に試みられ、低温・強磁場領域においては人工ピンよりも微小・高密度な酸素欠損が効果的な磁束ピン止めをもたらすのではないかと考えられてきたが、酸素欠損による磁束ピン止めの描像は明らかになっていない。また、通電電流と外部磁場を平行に印加する縦磁場配置を用いることで臨界電流密度Jcが数倍に向上する「縦磁場効果」が知られているが、縦磁場効果に対する酸素欠損ピンの効果も全く明らかになっていない。 以上の背景を基に、本研究では、市販の希土類系銅酸化物超伝導線材に対して、還元雰囲気での熱処理によって酸素欠損を意図的に導入し、様々な温度・磁場条件下でのJc測定を通じて、酸素欠損による磁束ピン止めの理解を試みた。 具体的には、(1)窒素ガス雰囲気での熱処理温度を変えることで酸素欠損を導入・制御、(2)面内・面間格子定数の評価(X線回折)と超伝導転移温度の評価(電気抵抗率測定)による酸素欠損導入の確認、(3)磁場中電気抵抗測定による超伝導特性(不可逆磁場、磁束ピン止めポテンシャル)評価、(4)広範な温度・磁場・磁場方向におけるJc測定による磁束ピン止め機構の評価を行なった。 その結果、面直磁場配置において酸素欠損導入に伴って磁場依存性の変化を確認し、酸素欠損による磁束ピン止めの影響を明らかにした。また、縦磁場効果に関しては、低磁場および高磁場において縦磁場Jcと面平行横磁場Jcが近づく振る舞いを観測し、酸素欠損導入に伴った磁束ピン止めサイトの増加と有効質量比の変化によってもたれされたと考察した。 酸素欠損ピンに関して、球状ピンによる要素的ピン止め力の数値計算を実施し、希土類系銅酸化物・鉄系超伝導体の測定データとの良い一致が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
市販の人工ピンを添加していない希土類系銅酸化物超伝導線材に対して還元アニールを施し、酸素欠損量の制御を試みた。電気抵抗率測定およびX線回折から、酸素欠損量が系統的に変化していることを確認した。これらの酸素欠損導入試料に対し、10 Kまでの低温・24 Tまでの強磁場下で臨界電流密度Jcの磁場依存性を評価した結果、面直磁場配置における磁束ピン止め力密度の磁場依存性は、(1)基本的には温度スケール則が成り立ち広い範囲で同じピン止めサイトが支配的であること、(2)磁束ピン止め機構を強く反映する低磁場領域のべき指数pが、酸素欠損が少ない試料でのp = 0.5から酸素欠損が多い試料ではp = 1.5へと変化し、酸素欠損が主要なピン止めサイトとして機能していると考察した。 一方、面平行磁場配置では、低磁場領域で縦磁場Jcと面平行横磁場Jcが近づく振る舞いが観測された。また、酸素欠損の多い試料では高磁場側においても縦磁場Jcと面平行横磁場Jcが近づく傾向を初めて観測した。これらの結果の一部は応用物理学会にて発表しており、今後、人工ピン導入試料に対する還元アニールによる酸素欠損導入を調べることで、酸素欠損による磁束ピン止めの理解が深まると期待できる。 また、酸素欠損も含んだ球状の磁束ピン止めサイトによる磁束ピン止めを定量的に評価すべく、要素的ピン止め力の数値計算を実施した。球状ピンを含む鉄系超伝導体の実験結果と比較し、数値計算結果と測定データがよく一致した。これらは国際会議招待講演を含む国内外の学会で発表した。関連論文も出版済み1報と投稿中2報があり、当初予定よりも多くの成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度には、標準試料として人工ピンの導入されていない市販線材における酸素欠損ピンの機能を調べた。今年度は、長尺・短尺柱状の人工ピンが導入された超伝導線材を対象に、還元アニールによる酸素欠損導入と超伝導特性・臨界電流特性の評価を行ない、人工ピンと酸素欠損による磁束ピン止めの競合・協奏関係について追究し、学会での講演および論文として発表予定である。
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