研究課題
磁気記録素子の記録密度を向上させるため、漏れ磁束による素子間の干渉が少ない反強磁性材料の利用が検討されている。しかし反強磁性材料のスピン配列を自由に変調する手法は未だ確立されていない。申請者は、新規磁気記録機構の基盤技術構築を念頭に、反強磁性スピン配列の電界変調技術の確立を目指す。本研究では、反強磁性スピン配列の電界変調を実証するために、反強磁性・強磁性相転移材料に着目している。このような材料が示す相転移現象を利用することで、強磁性スピン配列の電界制御を介した反強磁性スピン配列制御を行う。そのため電界を印加した際に誘起される圧電歪みにより強磁性スピン配列が効率的に制御可能であること、かつ操作電界をゼロに戻したときに異なる状態を実現できる二値性をどのように発現させるかについて調査することが必要である。初年度では、種々の強磁性材料を代表的な圧電材料であるPMN-PT基板に成長し、電界によるスピン配列制御の条件を調査した。その結果、(011)面方位を有するPMN-PT基板を用いることで、大きな歪みを誘起し効率的に強磁性スピン配列の制御が可能であることを見出した。加えて、ゼロ電界に戻した際にスピン配列が二値性を有するためには、強磁性状態で発現する磁気異方性と、歪みの大きさのバランスを考慮することが必要であることを示唆する結果が得られた。このような知見は、強磁性状態への相転移を介した反強磁性スピン配列の制御に重要である。今後、反強磁性・強磁性相転移を示す磁性材料をPMN-PT(011)に成長し、磁気異方性の大きさを調整することで電界による反強磁性スピン配列制御と二値性の実現を目指す。
2: おおむね順調に進展している
上述のように、圧電材料であるPMN-PT基板の面方位を適切に選択することで効率的に強磁性状態の変調が可能であることを見出している。また初期の磁気異方性状態を調節することがゼロ電界状態における二値性の発現に重要であることを示唆する結果が得られている。こうした知見に加えて、圧電歪みを印加することで、異方性磁気抵抗効果も変化することを見出した。このような知見は、反強磁性・強磁性相転移を利用したスピン配列制御において重要な知見である。以上のことから,本研究の進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した.
今年度の研究で明らかになりつつある磁気異方性と二値性の関係については、実験を追加で実施し、再現性や詳細な条件等を検討する予定である。こうして得られる磁性制御に関する知見を反強磁性・強磁性相転移材料に適用し、強磁性状態を介した反強磁性スピン配列の電界制御を実証する。反強磁性スピン配列の検知には、トンネル異方性磁気抵抗効果を利用することで、抵抗変化として検知することを検討しており、現在素子の製作を準備している。
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