希土類・遷移金属合金からなる磁性細線の電流磁壁駆動速度向上を実現するため、GdFeCo磁性細線の組成と駆動電流密度及び磁壁移動速度の関係を詳細に調べた。GdFeCoはフェリ磁性であるためFeCo合金とGdの角運動量は互いに逆向きになり、それらが相殺する組成を角運動量補償組成と呼ぶが、その組成付近で磁壁移動速度は2000m/secを超えた。一般に角運動量組成付近でのみ磁壁高速化がみられるとされていたが、当研究結果では広い組成範囲で1000m/secを超えることがわかった。そこでメモリとして応用上想定される動作環境温度である零度から70℃まで磁壁移動速度を測定してみたが、この温度範囲全域で1200m/secを超えて安定高速動作できることを確認できた。最短磁区長100nmのとき磁壁速度2000m/secにおいてデータレートは20Gbpsになる。 次に、電流密度を一定にしてパルス電流幅と磁壁移動速度の関係を調べた。一般に磁壁駆動力は電流密度に比例するが、当実験ではパルス電流幅を短くすると磁壁移動速度は大幅に上昇した。この原因を明らかにするため磁壁駆動後の磁壁形状を偏光顕微鏡で観察した。その結果、パルス幅が短いときには磁壁はストレート形状を維持しており、パルス幅が長くなると磁壁形状が湾曲していることを見出した。これは磁壁を長い時間駆動し続けると磁壁の複雑な動きのために磁壁形状が湾曲することをマイクロマグネティックスシミュレーションで明らかにした。電流による磁壁駆動のメカニズムとしては、GdFeCoに隣接する重金属Pt層からのスピンホール効果とGdFeCoのネール磁壁が直交することによるスピン軌道トルクが考えられるが、短パルスの時は初期のストレート磁壁が維持されているのでこのトルクが最大限利用できる。しかし、長パルスで磁壁が湾曲すると直交成分が減少するため磁壁移動速度が減少してしまう。
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