本研究では、SiCバイポーラデバイスの電気特性の厳密モデル構築にむけて、SiCの少数キャリア移動度を決定することを目的とした。なお、少数キャリアとしては、p型SiC膜中における電子を対象とした。少数キャリア移動度の実験的な評価手法として、npn型バイポーラトランジスタ(BJT)を利用して抽出する方法を考案した。デバイスシミュレータを用いて評価に適したデバイス構造を明らかにし、それをもとにBJTを設計・作製した。作製したBJTの電気特性を評価して解析することで、少数キャリア移動度を導出した。しかし、導出した少数キャリア移動度は、導出の際に仮定する他の物性値(真性キャリア密度)が不確かであることに起因して見積誤差が大きくなった。これにより本手法では、厳密な少数キャリア移動度の値を得ることが困難であることが分かった。 そこで本研究では、BJTの電気特性からSiCの真性キャリア密度を導出することを目的とし、同様の手法を適用した。BJTの電気特性は、真性キャリア密度と少数キャリア移動度の双方に依存して決まるため、片方を仮定することで、もう片方の値が得られる。真性キャリアの導出の際も、仮定する少数キャリア移動度の不確かさに起因して見積誤差が生じたが、その誤差は室温で40%程度に収まり、高温では誤差は小さくなった。新手法により導出した真性キャリア密度の値の妥当性を確認すべく、従来手法により導出した真性キャリア密度の値と比較した。従来手法で導出する際には、バンド構造を厳密に考慮した有効状態密度を用いた。新手法と従来手法により導出した真性キャリア密度はよく合致し、値の妥当性を確認できた。また、得られた真性キャリア密度をもとにSiCのバンドギャップを導出し、経験式により見積もられる値と整合することを確認した。
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