研究課題/領域番号 |
21K14205
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
奥谷 智裕 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任研究員 (60876449)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ポリマーPTCサーミスタ / フレキシブル温度センサ / メッシュエレクトロニクス / エレクトロスピニング / コンポジット材料 |
研究実績の概要 |
風邪や感染症を含む身体の不調は生体温度の微小な変化として表れるため、その兆候を見逃さない高度な予防医療の実現には、高感度なウェアラブル温度センサの開発が必要である。微小な生体温度の変化を計測できる温度センサとして、ポリマーPTCサーミスタがあげられる。しかし、従来のサーミスタは厚みがあり、シート型で伸縮性も有していなかったため、生体に密着せず長期間モニタリングを行うのは難しかった。そこで本研究では、エレクトロスピニング法を用いて、メッシュ構造を有する複合材料型の高分子サーミスタを開発する。 今年度は、エレクトロスピニング法を用いて、ファイバー型のポリマーPTCサーミスタの開発に取り組んだ。合成したアクリル酸ポリマーと導電材料と有機溶剤テトラヒドロフランを混ぜ、ファイバー化を試みた。3つの材料を混ぜる方法として、超音波分散を用いた。後述の導電フィラー選定にも関連するが、1時間ほどの分散処理時間が必要であることがわかった。ファイバー化にあたり、導電材料の選定を行った結果、グラファイトやカーボンブラックよりもカーボンナノファイバーのほうが、ビーズが少なく綺麗にファイバー化できることがわかった。作製されたコンポジットファイバーは、SEM観察により約4 μmの大きさを有しており、非常に極薄であった。 ポリイミドフィルム基板上に櫛葉電極を蒸着法でパターニングした後、その上にコンポジットファイバーを紡糸した。これにより開発したファイバーの抵抗値を読むことに成功した。ホットプレートでファイバーを昇温させながら、抵抗値を読み取った結果、35℃付近で急激に抵抗値が増加し、ポリマーPTCサーミスタ特性を有していることを確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
エレクトロスピニングでサーミスタ材料をファイバー化することに成功しただけでなく、作製されたファイバーが、10の3乗以上抵抗値が変化する理想のポリマーPTCサーミスタ特性を有していることを確認できたからである。また開発されたファイバー型サーミスタと、印刷で作製したシート型サーミスタの温度特性(応答温度)は類似しており、ファイバーでもシートと同様の導電機構が得られていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、作製できたメッシュ型サーミスタの様々なデバイス特性を評価する。具体的には繰り返し温度特性、透明性、応答性、フレキシブル性、通気性である。温度特性評価としては、フィルム上にメッシュ型サーミスタを作製し、温度を変化させたときの繰り返しの抵抗率の変化を調べる。メッシュの密度はサーミスタ内の導電パス量に直結するので、密度によって温度センサの特性が変わることが考えられる。スピニングのプロセス時間を変化させることで密度を調整し、密度とデバイス特性性、および透明性の関係を調べる。応答性はデバイスを高温化に置いた際の抵抗値変化の速度を評価する。また1 μm厚の極薄フィルム上にも同様にメッシュサーミスタを作製し、センサ部分を曲げながら温度特性を測ることで、フレキシブル性を調べる。さらに、メッシュ型サーミスタをメッシュ基板上で作製することで、デバイス全体を穴の開いた構造にすることで、通気性の付与を実現できることを目指す。通気性は、水蒸気透過率を測定することで確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
導電材料などの材料費や消耗品などが他の研究費で支払われたため、次年度使用額が生じた。
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