研究課題
貫通転位はキャリアの非発光再結合中心として働くため,ドリフト層内のキャリアの消滅を促進し,伝導度変調の発現を抑制する要因になっていると考えられる.そのため,令和4年度は低転位OVPE基板の作製に取り組んだ.OVPE法では種基板上へのホモエピタキシャル成長を行うため,基本的に種基板の結晶性を引き継ぐ.そこで,種結晶をNaフラックス法やアモノサーマル法で作製した高品質基板に変更することで,OVPE層の貫通転位密度低減を図った.その結果OVPE成長による転位の増殖などは見られず,3D成長の効果でむしろ転位密度が減少し,転位密度1.6E4 /cm2とこれまでで最も低い転位密度のOVPE-GaNを得ることに成功した.また,前年度に作製した素子の断面を露出し,発光観察によるキャリア分布の観察を試みた.しかしながら,本研究で観察対象とする高電流注入条件下においては,光の多重反射によって電界発光強度の空間的な分布が明瞭に観察されず,キャリア分布の推定が困難であることがわかった.そこで,代替の評価手法としてIV特性による評価に取り組んだ.GaNは高い電流注入条件下で伝導度変調が発現するため,発熱の影響を強く受ける.そのため,パルスIV測定と理論計算から伝導度変調の解析を行った.その結果,OVPE基板上での優位なオン抵抗の低下は,基板からのキャリア注入量の増大によってある程度説明がつくことがわかった.しかし,さらに高い電流注入条件下では理論から著しい乖離が見られたため,要因解明に向け引き続き調査が必要である.
2: おおむね順調に進展している
1)基板の低転位化に取り組み,種基板の高品質化によって最も低い転位密度を有するOVPE-GaNの育成に成功した.2)発光観察による伝導度変調の解明は困難であることがわかったが,代替の評価手法としてパルスIV測定が有効であることを見出した.3)理論との乖離の原因調査に向けたサンプルの作製をすでに終えている.以上より,当初の計画に遅れなく順調に進展していると言える.
令和5年度は高品質種結晶上に低抵抗条件を用いて厚膜OVPE-GaNを成長し,自立結晶を得る.その自立結晶上にPNダイオードを作製し,どこまでのオン抵抗の低減が達成されるかについて調査を行う.また,パルスIV測定による伝導度変調メカニズムの解析について,新たに作製したサンプルを用いて理論との乖離要因の調査を行う.
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