研究実績の概要 |
今年度は、金属酸化物メモリスタのシミュレーションモデルに基づくデバイス設計のための基盤技術構築に向け、前年度に引き続き、メモリスタの抵抗変化特性を詳細に評価するとともに、メモリスタ特性再現のためのシミュレーション並びにモデルパラメータ抽出プログラムの実装に取り組んだ。 特性評価については、TaOx/TiOy積層素子を用いて、アナログセット特性のデバイス構造による違いを詳細に評価した。特に、セット時の最大電流(I_set,max)とセット後の抵抗値(R_LRS)の関係を調べたところ、I_set,maxが小さい領域では、I_set,maxを大きくするに伴いR_LRSが増加する挙動を示す素子が見られた。そして、I_set,maxが15 mA近傍でRLRSが最大となり、さらなるI_set,maxの増加に対しては、逆にR_LRSが減少する挙動を示した。この結果は、本研究においてはTiOy層の抵抗成分が無視できず、I_set,maxの大きさに依存して、セットに伴うTiOy層の抵抗増加とフィラメント径の増大による抵抗減少が拮抗していることを示唆する。そして、シミュレーションモデル構築の観点からいえば、両者の寄与を考慮することが必要であることが明らかとなった。 シミュレーションモデルの実装については、先行研究において提案されている積層構造メモリスタにおけるコンパクトモデル(Torre et al., TED, 66, 1268(2019))を基に、特性の再現に取り組んだ。本モデルでは、微分方程式と非線形連立方程式を逐次解くことになるが、文献の微分方程式の解法では精度が不十分であることが明らかとなった。そこで、解法を種々検討し、有意な結果を得ることに成功した。その後、パラメータ最適化手法として、電流-電圧特性の計算結果に対してベイズ最適化を用いたパラメータ最適化を行うプログラムを実装した。
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