研究課題/領域番号 |
21K14214
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
金子 美泉 日本大学, 理工学部, 助教 (30755418)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マイクロ流路 / 温度分布 / 一体化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は「100℃以下の低品位な熱源で利用可能な循環型小型発電システムのための要素開発」である。本研究ではオーガニックランキンサイクルに利用される低沸点冷媒を作動流体に用いる。また、シリコン微細加工技術と小型電子素子作製技術を利用することでミリメートルスケールの構造部品と磁気回路を開発し、これらと低沸点冷媒を組み合わせることでセンチメートルスケールでミリワットレベルの出力を実現する。 令和3年度は提案する発電システムにおける構造部分であるマイクロタービン、マイクロ流路と冷媒を組み合わせたことによる温度分布や相変化の解析を行った。流路を一体成型したタービンと流路の無いマイクロタービンにおいては、冷媒の大気開放状態での実験を行った。本実験では、気相状態となった冷媒がタービン翼の収納されているケース部分に暴露された際に、断熱膨張で気液二相に変化している様子が観察された。また、これにより系全体が冷却され、液相となった冷媒により回転が抑制されることが明らかになった。流路一体型のタービンについては排出される冷媒を回収する閉鎖系のシステムにおいて冷媒の顕著な相変化は見られなかった。また、熱サイクルによる発電システムには復水器が必要であり、放熱は大きな課題であったことから、マイクロ構造を用いることで冷却が進みやすく、復水器の省略あるいは省スペース化と共に冷媒の相変化をコントロールできると考えられる。マイクロ流路についても同様にMEMS技術とシリコン材料を用いて開発を行った。流路については3次元方向に流路を形成した積層型と平面方向に流路を配したテスラバルブ型の開発を行い、積層型については熱輸送の様子を観察し、マイクロ領域での冷媒の挙動が観察されたといえる。 一方、磁気回路においては回転の初期トルクに対して磁石と磁気回路の磁力の強さのバランスをとる必要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度の研究計画はMEMSタービン機構、小型磁気回路、マイクロ流路、一体化システムのそれぞれの要素に分けて開発を行う予定であった。 MEMS技術を用いたシリコンタービンとマイクロ流路、タービンとマイクロ流路の一体化については予定通り進展しており、タービンの回転機構については圧搾窒素を用いたタービンと低沸点冷媒を用いたタービンにおいて流入流路の形状に検討が必要であることがわかった。また、マイクロ流路については省スペース化を実現する積層型マイクロ流路について設計・試作を行い冷媒を充填し、底部より加熱した際の熱の移動および流出口での出力圧力の測定行った。一体化システムについては発電実証用サンプルとしてマイクロ流路、タービン、磁石を内包したシステムについて10mm角以内で設計・作製を行った。作製した流路一体型タービンは冷媒を外部より80℃程度で加熱した際に約113,000rpmの回転数を示した。熱サイクル発電システムでは作動流体を循環させる必要があり、模擬的に流入側と排出側にシリンダーを接続して回収率を計測したところ、約65%の回収率となった。これについては大気中に放出された冷媒と液相となって内部にとどまった冷媒が考えられることから今後は構造の封止と回収システムの開発が重要となると考えられる。 一方で、小型磁気回路においてはこれまで開発を行っていた圧搾窒素に比べて、冷媒の密度が異なることからタービンに接着された磁石と、磁気回路の間の磁力のバランスについて検討が必要であることが分かった。特に、磁石と磁気回路の距離と磁性セラミックの抵当自律化について検討が必要であり、これによる磁気損失は磁石の極数増加により補う必要があると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度の研究計画は、「高速回転タービンの試作」「低損失・低インダクタンス磁気回路の開発」「低沸点材料の温度分布・相変化解析」「3mW用サンプルの設計試作」である。 高速回転タービンの試作と低沸点材料の温度分布・相変化解析については、タービン翼への流入流路についてと排出流路について有限要素法による解析を行う。これによりタービンの回転に冷媒が寄与するときの効率的な流路の設計を行う。また、流路の解析を行うことで、冷媒が断熱膨張により気相から気液二相へ変化するタイミングを解析し、復水器の開発につなげる。低沸点材料の温度分布については作動流体回収システムにおいて、配管内に導入可能な温度計の購入と実測を行う。また、相変化の解析についてはサイクルにおける加熱部の冷媒の相変化による温度低下が懸念されることから、冷媒の熱移動についても観察を行う。同時にマイクロ流路内での温度変化については計測が困難であることから、有限要素法による解析を同時に進め、実測と解析の整合性を確認する。 磁気回路については、まず磁性コアをもった巻き線構造コイルにより冷媒を作動流体に用いた発電実験を行う。これと共に磁場解析を行い透磁率の調整と磁石の極数の検討を行う。さらに、解析結果を基に磁気回路の設計と試作を行う。 3mW用サンプルの設計試作では、上記の研究成果をフィードバックしたマイクロタービン、マイクロ流路、磁石、磁気回路を組み合わせ、冷媒による回転と発電を行うサンプルの試作を行う。サンプルの発電実験では流入した冷媒は回収容器により回収を行うとともに発電効率についても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度の購入予定であった消耗品である低沸点冷媒の購入において、半導体不足の影響を受けて入手が困難となった。これにより、購入が延期となったため次年度使用が生じた。次年度、回転実験や温度・相変化の検証実験において低沸点冷媒を購入および使用する予定である。
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