テラヘルツ波は、高分子化合物の分析や爆発物、薬品を分析するための光源として期待されている。一方で、電子デバイスベースでのテラヘルツ波の発生・計測手法がまだ十分に確立しておらず、全光学的手法を用いた手法が一般的である。本研究では、全光学的手法を用いたテラヘルツ帯のスピンダイナミクスの解明を試みた。 スピントロニクス材料として一般的なCoFe単結晶薄膜に着目して研究を行った。異なる組成比の試料について、強磁性薄膜の膜厚を系統的に変化させ、スピン流の大きさを評価したところ、スピン流の膜厚依存性のスケールが組成比に応じて変化することが明らかとなった。これは、平均自由行程が組成比に応じて系統的に変化したためと考えている。 Cu2Sb構造のMnCrAlGeという強磁性薄膜において、サブテラヘルツ帯域のスピンダイナミクスが磁性材料の組成・膜厚によって大きく変化することが明らかとなった。特にCrをMnサイトで置換した場合に、フェルミ面の状態密度が減少することでスピンダイナミクスの緩和時間が増大し、サブテラヘルツ帯域のスピンダイナミクスが高効率に励起出来ることが明らかとなった。 さらに、超電導電磁石を用いることで磁気異方性が大きく無磁場で0.1~0.3 THz程度の発振が期待できるL10-FePtの磁化ダイナミクスを調べることに成功し、特に温度を変調することで発振スペクトルの線幅を小さくすることが可能であることを見出した。また、高いスピン分極率を有していることからスピントロニクスデバイスで応用されることの多いCo基ホイスラー合金の一種であるCo2MnSiにおいても、磁場を制御することで0.1~0.16 THz程度の磁化歳差を連続的に制御することが可能であることが見出された。 研究全体を通して、強磁性金属極薄膜が狭帯域テラヘルツ波発振に応用可能であることが見出された。
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