社会基盤を巡る公共的な意思決定においては、具体的な選択肢の是非のみならず、考慮すべき基準(公平性と効率性、安全性と価格等)においてもステークホルダー間で意見が対立してしまうことがしばしばある。そこで本研究は、基準に関する選好を合理的に集約し、意思決定を支援するための規範的手法の構築およびその応用を目的としている。
基準レベルでの意思決定を考える場合には、どの基準同士であれば両立可能であるかといった、基準間の論理的関係を考慮に入れる必要がある。そうした分析を体系的に行うため、本研究では、形式的な類似性に着目して、Social Ranking Solution (SRS)の理論分析を軸に進めてきた。本年度は、Lexicograhic excellence solutionと呼ばれる既存の辞書式比較の手法に対して、整合性その他の規範的公理に基づく新たな公理的特徴づけを示した。また同理論を、複数エージェントが協力する状況での各エージェントまたはその組合せの有効性を評価する問題へ応用し、数理的諸命題を示した。それぞれの成果は、査読付き学術雑誌に掲載された。
また、本研究では、基準に関する選好のメタ決定過程についても着目し、分析を進めている。本年度は、囚人のジレンマゲームに関する前年の分析を一層進めることで、協力を促す行動基準の選択に関する新たな知見が得られた。また意思決定手法の正当化を巡る無限後退の解消に関して、過年度の成果の一般化も行った。これらの成果は一部が国際会議で報告され、一部は査読付き学術雑誌に掲載された。
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