研究課題/領域番号 |
21K14235
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
石橋 寛樹 日本大学, 工学部, 助教 (80843979)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 空間相関 / 地震動強度 / 工学的基盤 / 強震観測記録 |
研究実績の概要 |
本研究の最終目的は,地点間の地震動強度の相関を考慮した確率場のシミュレーションに基づく,道路ネットワークのリスク・レジリエンス評価と構造物の補強優先度判定手法を提示することである.これにより,確率論的アプローチによる実現象を捉えた地震動強度分布の予測と,それに対する構造物の被害推定および道路ネットワークのリスク・レジリエンス評価が可能になり,補強優先度判定というこれらの指標の具体的な活用方法を明示することができる. 地震動強度には空間的な相関があり,地震や被災地域の特性に応じた空間相関特性を定量化することで,観測点間の地震動強度の補間・予測や,将来の地震に対するハザード評価,さらには経済的損失等のリスク評価の精緻化が可能になる.2021(R3)年度は,地震動強度の空間相関の評価に重点を置き,国内の地震観測データを用いて,工学的基盤上の地震動強度の空間相関特性を評価し,地震タイプや地域性による空間相関特性の差異を検証した. 2008年岩手宮城内陸地震(内陸地震),2016年熊本地震,2011年東北地方太平洋沖地震(プレート間地震),および2021年千葉県北西部地震(プレート間地震)を対象に,異なる地域で発生した同一の地震タイプの地震観測データを用いて空間相関特性を評価・比較した.具体的には,観測された地震波から地動最大速度(PGV)を算出し,各観測点のPGVを地盤増幅率で除することで得られる工学的基盤上の最大速度を基に,相関距離を推定した.結果として,解析対象の地震における工学的基盤上の最大速度の相関距離は,それぞれ差異はあるものの,地震タイプや観測地域によらず概ね同等であった.今後は,南海トラフ地震や日本海溝沿いの地震など将来起こり得る地震を対象に,空間相関特性を考慮した地震ハザード評価と,それに基づく道路ネットワークのリスク・レジリエンス評価に発展していく.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究フェーズは,(i)構造物の脆弱性評価(フラジリティ評価),(ii)地震動強度の空間相関の評価と確率論的手法による地震動強度の空間分布の生成,(iii)解析対象とする各構造物の信頼性評価(損傷確率の推定),(iv)地震後の道路ネットワークの交通機能(交通量や交通速度)の評価,(v)道路ネットワークのリスク・レジリエンス評価,および,(vi)構造物の補強優先度判定,に大きく区分される.フェーズ(i)と(ii)はそれぞれ独立しており,本研究の最終目的を達成する上で,取り組む順序に大きな意味はない.フェーズ(ii)では,過去の地震による強震観測記録や震源情報等,様々なデータの収集・処理が必要であり,これらの作業にどれほどの時間を要するのか正確に予測することが困難であったため優先的に取り組んだ.2021年度は,地域や地震タイプが異なる条件下での地震動強度の空間相関を評価することができた.複数の地域や地震に対して空間相関を評価できた点は大きな進捗である. 次のステップとして,推定された相関距離に基づき,南海トラフ地震など,想定する地震シナリオ下における解析対象地域内の地震動強度の空間分布を確率論的に多数生成することになる.確率論的手法のため膨大な量の繰り返し計算が求められるため,時間を要する作業になることが予想されるが,これに必要なプログラミングはおおよそ完了していることから,進捗状況は良好といえる.
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度(R4)年度は,(i)解析対象の地震シナリオの決定,(ii)解析対象地域の決定,および,(iii)地震動強度の空間分布の生成,に取り組む.(i)について,断層パラメータ等の地震に関する情報が公開されている南海トラフ地震あるいは日本海溝沿いの地震を対象に進める予定である.(ii)では,(i)を踏まえて沿岸部で広域にわたり地震被害が懸念される地域を選定する.ここで,将来的に構造物の信頼性評価まで発展させることを考慮し,地理情報システム(GIS)を用いて,解析対象地域内の橋梁の分布を整理する.(iii)では,2021年度の成果として得られた地震動強度の空間相関を表す相関距離を用いて,モンテカルロ法に基づく繰り返し計算により,距離減衰式における地震内誤差の不確定性を考慮した多数の地震動強度の空間分布を生成する.計算量が大きくなるが,当研究代表者が所有するワークステーションを活用することで対応できる見込みである. 2023(R5)年度以降は,構造物の脆弱性評価,橋梁の分布から道路ネットワークの構成への発展,さらには各橋梁の損傷による交通機能の低下に基づくリスク・レジリエンス評価へと発展していく.各フェーズで,実情に近いデータの収集・整理が課題になると考えられるため,年度によらず,データ整備の観点から継続した取り組みを進めていく.
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により,例年では学外で行われていた多くのイベントがオンライン開催となり,想定より旅費の支出が少なくなったため. 2022年度の研究では,相当数の繰り返し計算を行うため,データ保管用のHDD等が必要になると予想される.次年度使用額は,これらデータ管理に関する消耗品等に活用する予定である.
|