研究課題/領域番号 |
21K14238
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
富樫 陽太 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (90753294)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トンネル / 切羽安定 / 極限釣り合い法 |
研究実績の概要 |
研究代表者らは,曲線状のすべり線を用い,緩み土圧を考慮した切羽土圧の推定方法を提案している。本研究では,トンネル掘削よる切羽崩壊の進行性の特徴を実験的に取得し,実用的な切羽安定性理論を構築を目指す。初年度は,(a)提案する切羽土圧推定法の既往方法との比較を行うとともに,トンネル引き抜き実験を行い(b)被り土圧がすべり線形状に与える影響と(c)引抜き量と切羽土圧の関係を調べた。 (a) 提案方法は,楕円弧のすべり線用い,すべり線に挟まれる領域の微小要素の釣り合い式(1階微分方程式)を導くものである。既往方法のすべり線形状は,直線あるいは切羽直前のみを曲線(対数らせんなど)とする場合に分けられるが,提案方法のような,地表面に至るすべり線を曲線とした切羽崩壊の検討は見当たらない。提案する微分方程式をルンゲクッタ法で解く簡易な数値計算コードを開発し,実験土槽の寸法で予備実験の結果と比較・検証したところ,概ね妥当な値が得られた。 (b)粒度・せん断抵抗角の異なる砂質土試料を用い,土被り比H/Dを変化させたケースの二次元トンネル引き抜き実験を実施した。相対密度を70%程度に揃えた実験の結果,トンネルの引き抜き量に応じて,せん断抵抗角が小さいほどすべり線の幅は大きくなり,すべり線の傾きも緩やかになった。また,土被り比の大きいケース(H/D>4)では,せん断抵抗角が小さい場合は地表面に至る崩壊を呈すが,逆に大きい場合には崩壊が地表面まで到達せずに部分的に局所崩壊した。これはアーチ効果による影響と考えられる。 (c)引抜き初期には,切羽土圧は被り土圧にほぼ等しい。一方,引抜き量の増加に伴って,切羽土圧は減少し,最終的に一定値になる。これは,切羽崩壊が進行的に生じ,すべり土塊の重量は最終的に地山の摩擦抵抗で受け持たれることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で構築を目指す切羽安定性理論において,提案する切羽土圧の微分方程式を数値計算で解くコードは開発済みである。これにより,提案する微分方程式がSilo効果(地山で崩土の重量を受け持つ効果)を適切に表現できることに加え,予備実験の土槽寸法で試計算した結果から提案方法が概ね妥当であることを確認している。また,せん断抵抗角や土被りによる摩擦抵抗の違いがすべり線形状に与える影響について,室内でのトンネル引き抜き実験を行い,すべり線の形状の変化や崩壊領域の変化を特定している。一方,崩壊が地表面に至るか否かについてはアーチ効果の影響が極めて大きい。アーチ効果を室内実験において定量的に把握し,せん断抵抗角・土被りによる摩擦抵抗の違いで整理しておく必要がある。切羽土圧に関しては,引抜き初期と引抜き量を増加させていった時の値を,摩擦抵抗(粒度と土被り比)で整理していけば,切羽崩壊の進行性を考慮しながら切羽安定性を評価できると考えている。よって,この自己点検結果である。
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今後の研究の推進方策 |
提案する切羽土圧を推定可能な微分方程式については,すべり曲線の形状について改良していく。また,すべり線に囲われる領域の微小要素形状についても改良を考えている。アーチ効果の要因は地山の摩擦抵抗である。粒度を意図的に大きくすればせん断抵抗角の増加を考慮できるが,模型土槽に対して粒径が大きくなりすぎるため,せん断帯の幅の影響が生じる。従って,次年度には,やや大きい土被り比(H/D>6)の実験を実施して,アーチ効果の影響を実験的に取得していく。すべり土塊の高さと土被り比の関係で明確な傾向が出れば,減少の傾向を踏まえたモデル(微分方程式)を開発していく。切羽土圧の引抜き量に応じた変化は,切羽崩壊のメカニズムを把握する上で重要である。まず,静水圧と同様な土圧分布を仮定可能な範囲を特定する。その後,すべり土塊の高さや幅,それらの変化を逐次特定して,各段階におけるすべり領域を踏まえた安定計算を行い,実測した土圧と比較検討する予定である。
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