応募者の研究は将来的には閉鎖性水域を対象とした物理・生物・化学過程に関するデータ同化の指針を得ることを最終目標としており、本研究ではそのうちの生物・化学過程の推定の基礎となる物理過程(水温、塩分、流動)を対象とした。研究は応募者の所属する研究所で開発された流動生態系シミュレーションシステム(通称EcoPARI)と、それに実装したデータ同化モデルであるアンサンブルカルマンフィルター(EcoPARI-Data Assimilation)を用いて検討を行った。 アンサンブルカルマンフィルターでは、ばらつきを表現するために数値シミュレーションモデルの不確実な項に誤差を設定する。閉鎖性水域の数値シミュレーションを実施する際には、境界条件と言われる外海との流出入、河川流入、及び天候の状況を入力する必要があることから、これらの誤差の影響がシミュレーション結果に支配的であると考えられた。そこで、本検討では境界条件が主要な誤差要因と仮定して、境界条件の誤差量の見積もりを行った。 対象とする湾は応募者が研究対象としている伊勢湾とし、複数年にわたるデータ同化実験を実施した。データ同化の実験の結果、長期的に安定的にデータ同化を実施することに成功した。したがって、境界条件が主要な誤差要因という仮定が尤もらしいということがわかった。データ同化の実施に際してはメンバー数とデータ同化に用いる観測数の関係に関する検討も行い、メンバー数が少ない場合には観測数も併せて少なくする必要性が示唆された。
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