研究課題/領域番号 |
21K14264
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
中居 楓子 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80805333)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 防災対策 / 災害情報 / インフラ整備 / 人口 / 地価 / 土地利用 / 津波 / 洪水 |
研究実績の概要 |
災害情報や防災施策はそれらが意図する効果も含め,都市に様々な影響を及ぼす.本研究では,(1)津波浸水想定区域の指定が地価に及ぼした影響,(2)沿岸部のインフラ整備が建物用地分布に及ぼした影響,(3)木曽川における堤防整備が市街化に及ぼした影響の分析を通じて,各種政策が都市に及ぼす影響を体系的に明らかにする.以下,2022年度に主に取り組んだ(1)(2)の課題の成果を示す. (1)2012-2018年に津波浸水想定区域指定(区域指定)された日本全国の地域を対象に,区域指定が地価に及ぼした影響を動的に明らかにした.具体的には,区域指定後の経過年数別に津波浸水の有無を説明変数に含むヘドニックアプローチによる回帰式を推定することで,影響の程度とその時間的経過を分析した.また,過去の被災経験の頻度が異なるグループ別に分析した.その結果,いずれのグループも区域指定後の地価は浸水域外より低くなる,あるいは同等であり,津波浸水想定の情報が地価を下げるという形で作用するケースがあることが示された.ただし,想定浸水深が0.5m以上の場合は,いずれも7年以内には下落が鈍化あるいは再び浸水域外と同等となり,影響が長くは続かなかった.これは,洪水に関する先行研究と類似の傾向であった. (2)三陸沿岸部を対象に旧版地形図を用いて土地利用メッシュデータを整備し,建物用地の変遷および津波浸水域内の建物用地の割合から低地居住の実態およびインフラ整備との関係性を分析した.その結果,東日本大震災直前は津波浸水域内の建物用地メッシュ数,割合共に増加する傾向が見られた.また,明治期以降に建物用地が増加した地域の周辺では港湾や鉄道等のインフラ整備,土地区画整理事業が行われているケースが多かった.直接的な関係性については調査中であるが,沿岸部の利便性や経済発展に関わる公共事業が低地居住を導いている可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,津波対策が地域の曝露に与えた影響について,▼原因の違い:構造物によるハード対策,非構造物による制度的対策,▼着目する結果変数の違い:人口,地価,▼地域の違い:都市部,地方部などに応じて結果を体系的に整理することで,「具体的にどのような地域において,津波対策に対する曝露の“弾力性”が高いのか」を把握することを目的としている.また,上記に加え,▼ハザードの違い:津波と洪水についても知見を整理する予定である.研究実績の概要に示したとおり,各論の分析は既に終えており,研究の進展としては順調である.ただし,査読付き論文としての出版に至っていない.また,各論を取りまとめた上での体系化については,予定通り,最終年度である2023年度に取り組む予定となっている.以上の状況を踏まえ,2022年度は「おおむね順調に進展している」と判定した.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は,対策,着目する結果変数,ハザードの違いを踏まえ,災害対策が都市に及ぼす影響に関する知見を体系的にまとめる予定である.なお,各種対策が人口と地価にそれぞれ及ぼした影響は明らかになっているものの,人口と地価もまた相互に作用する要素であるため,それらの要素間の関係性を一貫して説明するための分析を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費が予定していたより少なかったため.また,論文出版費用がかかることを予定していたが,採択に至っていないため,使用出来なかった.
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