昨年度に実施した研究実績として、 (1) ESBL産生耐性遺伝子を対象とした薬剤耐性の保存性の評価を行った。 (1)では、昨年度の実施項目の結果を踏まえ,blaCTX-Mグループに着目して、耐性菌の保存性と耐性遺伝子をコードするプラスミドの脱離を評価する手法を検討した。供試菌株には、異なるblaCTX-Mグループ(blaCTX-M group-1、blaCTX-M group-2、blaCTX-M group-8、blaCTX-M group-9)を保有する腸内細菌科細菌(Escherichia coliとEnterobacter cloacae)を使用した。 E.coli の標準株であるNCTC13353(blaCTX-M group-1)、NCTC13462(blaCTX-M group-2)ならびにNCTC13463(blaCTX-M group-8)は、培養1日後で生残率が30%以下に減少した。その一方で、E. cloacae であるNCTC13464(blaCTX-M group-9)の1週間後の生残率は25%と他の菌株と比較して高く、菌種による生残性の違いによる影響が確認された。 37℃における標準株の耐性遺伝子の保存率は0から120%で推移し、約1ヶ月経過してもblaCTX-M-group 2を除いて90%程度であった。培養温度を20℃とした場合には、bla CTX-M group 1を除き、いずれの菌株も静置と振とう条件では保存率が低下した(NCTC13462,NCTC13464)。したがって、同一菌株を培養した場合、培養温度が低い場合に耐性遺伝子の欠落が生じると推察された。ESBL産生Enterobacteriaceaeの生残性は菌種によって異なり、培養温度が低いほどその生残率は高くなったが、耐性遺伝子の保存率は逆に低下する傾向が得られた。
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