本研究は,氾濫原の洪水撹乱に対する地表性昆虫類の垂直退避行動と種多様性の関係を明らかにし,近年自然再生の一環として人工的に造成される例が増えつつある人工氾濫原における垂直方向の環境構造(樹木・草本管理)の整備のあり方について示唆を得ることを目的とする. 研究計画に基づき,氾濫原の地表性昆虫類のピットフォールトラップ定期調査を月1回の頻度で行った.調査サイトは,実験区として洪水撹乱を受ける氾濫原(アザメの瀬,牟田部遊水地,巨勢川調整池の3箇所)および対照区としてそれぞれの氾濫原近傍の洪水撹乱を受けない草地を3箇所,計6箇所を選定した.サンプルは持ち帰り同定をおこなった. 2021/8/12-14の間に九州北部にて豪雨が発生し,いずれの氾濫原も水没した.地表性昆虫の種構成の回復過程や洪水イベントからの時間経過と優占種の遷移などを記録した. これまでの調査期間を通じて記録されたコウチュウ目は87種約5800個体であった.それぞれの調査サイトで比較すると,アザメの瀬と牟田部遊水地で実験区が対象区に比べて採捕種数,個体数,生物多様性指数で上回った一方で,巨勢川調整池では実験区と対象区でこれらの差がほとんど見られなかった.洪水攪乱の後に消失した種はいなかったが,一部の優占種で2021年の大規模出水後に個体数が減少したものがあり,2023年度までのデータから個体数は回復傾向であるもの台規模出水以前の個体数には回帰していない.これは攪乱の影響であると推測している.また,巨勢川調整池については,年数回の洪水攪乱が起こるが垂直退避構造可能な木本が存在せず,地表性昆虫類の生息に影響している可能性がある.
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