研究課題/領域番号 |
21K14287
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松本 直之 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (30814389)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 漆喰 / 木摺 / 圧縮強度 / 曲げ強度 / せん断強度 / 砂 |
研究実績の概要 |
本研究は,日本の近代木造建築における主要な壁構法の一つである木摺漆喰壁における木摺と漆喰の連動の影響を考慮した復元力特性モデルを実験および解析的検討により明らかにし、近代木造建築の地震被害の検証と被害想定を行うための基礎的な知見を得ることである。具体的な目的として,以下の3点を挙げている。1.建築材料としての漆喰の材料特性および水平せん断時の挙動の実験的検証,2.漆喰と木材の相互作用を考慮した木摺漆喰壁体の理論式及び復元力特性モデルの構築,3.木摺漆喰を用いた近代木造建築の地震応答解析による被害検証と被害予測,である。 本年度は,木摺漆喰の主要な材料である漆喰の材料実験,試験結果を適用した要素試験体の解析モデル構築を行った。木摺漆喰壁に用いられる漆喰(製作は過年度)について,下塗り仕様(砂なし),中塗り仕様(2種類の比率で砂を混和)を想定した試験体を用いて,圧縮・せん断・曲げの各強度試験を実施した。これにより,既存のデータ蓄積の少なかった圧縮強度に関する知見とともに,せん断強度,曲げ強度に関する知見を得ることができた。また,調合に関しては砂の混合比による強度・剛性の低下がみられることを示した。 また,漆喰のみの圧縮強度データを適用して,600角の木摺漆喰のせん断要素試験の解析モデルを構築した。漆喰版の降伏,破損に伴う剛性・体力低下に関する点には課題が残るものの,漆喰の材料強度を元に一定の精度で,同材料,同時期施工の木摺漆喰のせん断抵抗(主要要素としての対角圧縮の効果の評価)を再現しうることが確認された。 上記の実験結果は,日本建築学会関東支部研究報告集,Bulletin of ERSに発表され,前者については優秀研究報告として採用され,高い評価を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
漆喰の材料強度については,作成済の試験体を使用して圧縮,せん断,曲げと複数の応力条件に対する強度性能とそれらの相関性に関する知見が得られ,また結果を要素試験結果に適用することで,得られた材料特性データの有効性を検証することもできた。しかし,漆喰材料の加工,測定条件の吟味に時間を要した影響から,塗り厚さを考慮した要素試験の実施には至っていない。また,過年度実施の要素試験結果の吟味から,せん断要素試験方法の再検討(大変形領域におけるねじれ・版の座屈,水平せん断との比較)が必要となったこともあり,実施には至っていない。ただし,解析的検証方法のめどが立ったことから,次年度に追加実験を実施することで,効果的に要素実験の実施とその検証か可能となると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
過年度のせん断試験結果,解析モデルの適用範囲を再検証の後,塗り圧,調合,木摺の寸法,アスペクト比等をパラメータとした要素せん断試験を追加実施し,耐力要素としての木摺漆喰壁の性能を明らかにする。なお,並行して本年度計画されている,実大試験のパラメータを確定し,実大試験を実施する。調合,養生期間を適切にコントロールしたうえで,要素試験,材料強度結果との照合を行い,その適用範囲と力学的なメカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
漆喰材料の加工,測定条件の決定に時間を要した影響から,当初予定していた塗り厚さを考慮した要素試験を未実施であったため,試験体製作,試験実施費用を次年度に繰り越している。次年度に,新たな検討条件の下でせん断試験を実施し,その結果を活用して実大せん断試験を実施の予定である。
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